2017年6月2日金曜日

ケインズ ― 経済学者・経済システム立案者・人間 (平井俊顕)

ケインズ ― 経済学者・経済システム立案者・人間

                             平井俊顕




本書は、ケインズについて、その全体像を示した1冊の書物を用意しておきたいという動機に端を発している。全体像を、できるだけ分かりやすく、かつ適度な分量で提示しておきたいという動機である。

ただし、ケインズの理論的変遷とか、経済システムの立案をめぐる話 ― しかも、これらが本書の主要な部分である ― は、それ自体、不可避的にかなり複雑な要素を含むことになる。その意味で、本書が主要な対象とする読者は、経済学を学んだことのある人で、ケインズについてこれらの側面を本格的に知りたいと思う人である。

      (新書の大きさでいえば、およそ300ページ)

 簡単に本書の内容を説明すると次のようになる。
 
第1部「イギリス経済・社会」は、ケインズが生まれる前のイギリス、つまり大英帝国の経済的・社会的状況を扱っており、いわば前説に相当する (第1章、第2章)。
 
第2部「経済学者」は、経済学者ケインズを扱っている。ここでは最初に、スミスからケインズに至る経済学を理論史的にとらえ、続いてケインズを含むケンブリッジ学派にみられる2つの理論的流れ、および資本主義観についてみている (第3章、第4章、第5章)。

 第6章でケインズがどういうことをした人物なのかを説明したうえで、経済学者ケインズがどのようにして『一般理論』にみられる理論を打ち立てるに至ったのかを、第7章から第10章で扱っている。第7章と第8章は、『貨幣論』から『一般理論』に至るまでにケインズが辿った経路をとらえたものである。第9章で『一般理論』とはどのような特性をもつ著作なのかを扱ったうえで、第10章では、読者が『一般理論』そのものを読むさいの参考にしてほしいと思うことがらを書いている。その理由は、現在、ケインズの理論として流布しているものは、相当程度、『一般理論』と異なった内容と方法によって組み立てられているからである。それは、進化したものという言葉では表現できるものではないと筆者は考えている。第11章は、この30年のマクロ経済学を批判的にとらえたものである。
 
第3部「経済システム立案者」では、ケインズが関与した重要な経済システムの構築活動に焦点を当てている。第12章と第13章では、国内経済システムに関係する雇用政策と福祉国家システムへの貢献を、第14章と第15章では、国際経済システムに関係する救済問題、国際通貨制度を扱っている。いずれも、戦後の資本主義世界の進む道に大きな影響を与えることになったケインズの活動である。
 
第4部「人間」では、経済学者、経済システム立案者という歴史的に名を残すケインズとは別に、人間ケインズを扱っている。とりわけ、ブルームズベリー・グループという存在がケインズにあっても大きく影響を及ぼしている。第16章ではこのグループを概説し、続いて、第17章で自らの思想的遍歴を語っている「若き日の信条」の内容をみることにする。最終章の第18章では、かれが書いた遺言が物語るものを通じ、人間ケインズをみている。


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ケインズ ― 経済学者・経済システム立案者・人間


     第1部 イギリス経済・社会

第1章 大英帝国の経済的衰退
第2章 ヴィクトリア後期社会の諸相

     第2部 経済学者

第3章 スミスからケインズまで - 理論史的概観
第4章 ケンブリッジ学派における2つの流れ
第5章 ケンブリッジの資本主義観
第6章 ケインズ 
第7章 ケインズ経済学の成立過程
第8章 ミカエルマス講義
第9章 『一般理論』
第10章『一般理論』に「本当に」書かれていること
 補章 理論形成史的探索が示す関連図表
第11章 マクロ経済学はどうなっているのだろうか

    第3部 経済システム立案者

第12章 雇用政策をめぐって
第13章 福祉国家システム構築への寄与
第14章 救済問題をめぐって
第15章 国際通貨制度をめぐる闘い

      第4部 人間
第16章 ブルームズベリー・グループ群像
第17章 これまでを振り返りみて
第18章 遺言は語る

ケインズ略年表 
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