2018年10月1日月曜日

世界秩序の地政学的激変 - 米ソ冷戦体制から米中露三つ巴体制へ 平井俊顕


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世界秩序の地政学的激変 米ソ冷戦体制から米中露三つ巴体制へ

平井俊顕

米ソ冷戦体制 (1947 - 1991) が終焉し、米一国支配体制の時代の到来と思われたのだが、21世紀になってブッシュ政権により、9.11を口実 (いわゆる「ニクソン・ドクトリン」と「ネオ・コン」の戦略) に、アフガン攻撃 (2001)、イラク戦争 (2003) をしかけ、当初、勝利を収めたかにみえたのだが、その後は泥沼化し、戦争の目的は喪失状況になってしまっており、はっきり言えば、アメリカの敗北状況になっている。とくに、後者にあっては、フセイン体制打倒後の、イラク統治政策の失敗(とりわけ、シーア派擁護の体制によりスンニ派の不満が高まり、それに加えて、「アラブの春」の到来が加勢してイスラム国の台頭が発生、一気にそれはシリア情勢の深刻な混沌化をもたらすに至っており、アメリカはいまでは中東安定化問題においてイニシアティブを喪失するに至っている。

アメリカが覇権国家になったのはいつかであるが、結論的にいえば、非常に短い期間である。このことは注目すべきである。(ドイツとともに) 新興国家アメリカが大きな経済的影響力をもつにいたったのは、19世紀の第3期であるが (マーシャルも米独経済について詳細な分析を残している)、その後、戦間期を通じ、軍事的な介入により大きな政治的影響力をヨーロッパにもつに至るも、キンドルバーガーの言を用いれば、「イギリスは統治する意思はもちあわせていたが資金が欠乏していたため、そうする能力がなかったのにたいし、アメリカはそうする能力はあったものの、意思がなかった」のである。
 アメリカが世界覇権を明確に意識する行動に出たのは、スターリン・ソ連との対抗の結果であり、戦後間もなくのころである(とくにギリシア危機を契機とした「トルーマン・ドクトリン」)。
 そしてスエズ危機の発生 (1956) により、はじめて大英帝国が実際にもアメリカに覇権を譲るような現象が生じたのである。その意味で覇権国家アメリカとは、厳密にいえば、これ以降、1991年のソ連崩壊までが、いわゆる冷戦体制下での覇権国家アメリカである。つまりわずか35年ほどであり、しかもこの期間は、地球上の半分はソ連の支配下・影響下にあったのである。
  そして1991年から2007年あたりまでが、「アメリカ一国覇権国家時代」ということができる。あたかもアメリカが世界を一国で制覇していたかのように、世間ではなんとなく思われがちであるが、そうした期間は非常に短い。現在世界は浮沈がきわめて激しいのである。

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2011年にチュニジアに端を発した「アラブの春」は当初、独裁国家にたいする大衆の怒りの勃興として一種の民主化要求運動的色彩を帯びてはいたが、やがて本来の軍事的諸勢力の内部対立の激化が「アラブの春」の新たな局面となるに至り、結果、リビア(カダフィ体制崩壊の後の戦国無秩序状況)、エジプト(ムバラクに代わる新たな独裁体制 [ムバラクムスリム・ブラザーフッドシーシ])、そしていまにみるシリアの状況(周辺諸国による露骨な内政干渉、というか軍事干渉。アサドはロシア・イランの傀儡以外の何物でもない) が出現するに至っており、中東全域が(北アフリカとともに)きわめて不安定な状況に陥っている。

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もちろん、これらの状況が膨大な数の難民を生み出し、2015年に象徴されるような100万人を優に超える難民(および偽装難民)のヨーロッパへの流入を引き起こし、(すでにその前から反EU的勢力がEU内にかなりの勢力を見せていたが [前回の欧州議会選挙で大量の反EU的スタンスをとる議員が誕生していたところへ]、この大量難民対策の失敗は、結果的に移民排斥と唱える極右政党の大躍進をEU内にもたらすことになり、ドイツとブリュッセルを中心に展開していたEUが、致命的ともいえる分裂・瓦解をもたらすに至っている (そればかりか、メルケルは首相の地位を維持するのに四苦八苦しているのが現状である)。地政学的にいえば、EUはきわめて分裂・弱体化している。ポーランド、ハンガリー、チェコ、スロヴァキアといったヴィジグラードを筆頭に、最近ではオーストリア、イタリアが反EU政党により内閣が結成され、さらに北欧においても極右・ナショナリズム政党は重要な地位を占めるに至っている。かのスウェーデンも、いまでは中道左派が単独で政権をとれないばかりか、極右政党 (Sweden Democrats など) が大きな地位を占めるに至っている。

 *いま、これまでのEU指導部 (メルケルを中心とする) のスタンスを声高く唱道しているのはマクロンである。マクロンの若さと意思に感激して共闘体制を組もうとしているのがメルケルである。

  *ハンガリーはEU/ブリュッセルから議決権のはく奪議案を欧州議会に出されているが、オルバーンは、それに挑戦するかたちで、モスクワ詣でを行っており、プーチンを喜ばせている。これが反EU派の、いまや頭目とみなされている人物によって行われたことはEUという組織にとってかなり重大な意味をもつものである。


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21世紀の声を聞いたころ、ロシアは政治・経済の極度の疲弊状況におかれており、エリティンは酒びたりで政治どころではない状況に陥っていた。そして無名のプーチンがエリティンを代行するというような有様であった。そしてその背後には、いわゆる「オリガルヒ」が政治の実権を握る状態になっていたのである(いまの「オリガルヒ」はプーチンの子飼いであるが、当時はプーチンを操れる可能性のある「オリガルヒ」であり、状況はまったく異なっている)。
 一方、中国はといえば、以前として驚異的な経済成長をみせるなか世界経済における経済的存在をいやましに高めていたものの、対外的な政治的拡大を図るという明示的な意思を示す事態ではなく、アメリカが巨大な数の工場移転・設置を行うことを許容しながら、共栄するような姿勢を示していた。それに共産党指導部の独裁体制下にあるとはいえ、共産党内部での独裁者が誕生するには至っていいなかったのである。

こうした状況は、今からして思えば、急激な変化を見せることになった。ロシアの場合、何よりも経済的には、原油価格の高騰により大きな回復を見せることになった。いまでもそうであるが、ロシア経済は、国家予算の収入に占める石油収入が如実に示すように、一次資源に大きく依存している。そしてプーチン自身が戦略的にチェチェン戦争を利用し、自らの地位をあげるとともに、オリガルヒを追撃・追い落とすことに成功したことがあげられる。短期間に、プーチンに批判的なオリガルヒは、あるいは牢獄に、あるいは国外追放に、あるいは毒殺に会うことになり、彼らが握っていた経済的支配力はプーチンの子飼いの人物に指導権が移るという事態が進展したのである。
 プーチンはそれ以外にも自らの政党を立ち上げ、それが議会を支配するような状況にまでなっている。そしてやがてかの有名なミュンヘンでの会議で「世界戦略国家ロシアの復活宣言」がなされ、以降、プーチンはクリミア併合、東ウクライナの実効支配、さらには
シリア・アサド政権の支援を通じて、シリア戦争における主役の座をとるに至っている。
 もちろん、EU内部には、反EU政党などへの資金援助 (有名なのはルペンにたいするもの) や、バルカン諸国への政治介入、さらには2016年のアメリカ大統領選挙をめぐる露骨な選挙干渉を実行したりしている (いうまでもなく、これはいま最も重要なアメリカの政治問題、政治危機を引き起こしている問題である。とくに中間選挙の結果は、今後のアメリカのあり方に深刻な影響を与えるものである)
 ただ、ロシアはかつてのソ連のような影響力を世界にたいしてもっているわけでは全然ない。軍事力の巨大であるが、ソ連崩壊時にそれまでグローバルにアメリカとその影響力を張り合っていた網はその手を離れてしまい、それを取り戻すことはできないのである。また経済的にもソ連経済は遅れており、依然として一次資源に依存している状態にある。それに加え、上記のクリミア問題などで米欧からいくどかの経済制裁を受け続けているから、経済的には状況はけっして良好なものではない。それにあの広大な領地に住む人口は非常にわずかであるうえに、ロシアにはウォッカおよび極寒による成人男子の平均寿命がきわめて短いという問題があり、潜在的には中国の人口圧力が絶えず国境地帯で作動している。

これにたいし、中国の場合は、ロシアと異なり、経済大国としての影響力を有している。これはこれまでの共産国家中国が、1949年の独立以来、「大躍進運動」、「文化大革命」といった政治動乱により、信じがたいほどの死者をもたらしてきており、世界戦略どころではなく、国内の混乱の連続する歴史を、清朝の没落時と同様に繰り返してきた国である。
 それに劇的な変化をみたのは1978年の鄧小平の復活による「改革開放路線」である。これはいまからみても奇跡ともいうべき社会・経済的状況の進展である。とりわけ、習近平が指導者になってからの独裁傾向は顕著であり、党内部での権力掌握(それは習が生涯トップであることが党大会で承認されるという事態に象徴される)とともに、国内での反対派にたいするかなり露骨な弾圧が、情報掌握テクニックを駆使しながら行われるようになっていることはよく知られている。反中国的報道を国民が自由に聞くこともSNS統制により難しくなりつつある (さらにその後の展開については後述する)

 *(世界中を見渡しても、一党独裁が実質のみならず、形式的にも採用されているのは、中国くらいである [ロシアの場合、西欧諸国と同様の政治システムを採用しており、大統領選挙、複数政党が存在している。プーチンが独裁化を進めるなか、それらが形骸化しているという問題がある]。そしてこの国の経済成長は、資本主義システムを採用することによって、なかでも海外からの直接投資による技術移転などを通じ、世界の工場とまで言われるような経済システムを構築するに至っている。資本主義とはなにか、そしてそれと政治システムとの関係はいかなるものとして理解すべきか、といった問題をわれわれに突きつけている。)

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こうしてロシアでのプーチン体制の確立、中国の習近平体制の確立、そして両国の世界覇権を志向する意識的行動がリーマン・ショック前後から顕著になっており、2010年代には米中露三国体制の時代が開始されており、この流れが変わることはないような状況に立ち至っている

アメリカ:トランプ政権の孤立化政策により、これまでの同盟国との関係を「清算」する行動をとり続けてきている。他方、ロシア・プーチンの行動にたいしては黙認、もしくはできるだけそれに従うような政策をとってきている。このことはつい最近の国連演説でも明確に示されている。
トランプはアメリカの軍事支出を劇的に増大させているが、ソフト外交は完全に放擲しており、かつての同盟国を無視もしくは敵視するかのような言動を繰り返している。これにより、アメリカは覇権国家としての地位を劇的に低下させ続けているのである。

ロシア:ロシアは経済的には経済制裁や、資源依存経済状況があり、かなり苦しいのだが、軍事大国としての体制を立て直し、存在感を高めている。プーチンは「ロシア帝国」の再興を目指すような方針で臨んでいるが、客観的に見れば、かつてのソ連とは依然としてそれまでとは比べ物にならないほど世界的な影響力は小さいといえる。かつては地球上のあらゆる地域でアメリカと覇権を争っていたのだが、いまはソ連の消滅 (199112) と同時にそうした力は喪失している。かつての勢力圏内ではわずかにクリミア半島の接収を行ったのと、ウクライナ東部への介入が目立つ程度であり、対外的にはシリア戦争へのアサド支持軍事介入が唯一といってもよい状況にある。そして中国との経済的・軍事的関係を保ちながらアメリカに対抗していくような姿勢をみせている (が、本来的に中露がどの程度まで同船できるのか、未知数である)

中国:この10年間の中国は経済大国となり、その経済力により陸海空の軍事力を大幅に増強してきている。東シナ海・南シナ海周辺での強引な領地化も着々と実行して、実質支配に至っている。

それに劣らず注目されるのは、いわゆる「一路一帯戦略」(One Road and One Belt Initiative) (厳密には、「シルクロード経済ベルトと21世紀海洋シルクロード」(The Silk Road Economic Belt and the 21st-century Maritime Silk Road) である。中国大陸以西地域(中央アジア)からヨーロッパに向かう広大な地域をその経済戦略を利用することによって、そしてそれを利用しつつ、政治的影響力を明確に強めて実効支配していくという戦略である。

 この戦略は上記地域に限られているわけではない。目星をつけた国にたいし、インフラ建設計画をもちかけ、そして巨大なローンを組ませる。その国は、そのローンを用いて、中国企業にインフラ建設 (現地での建設は、中国人労働者によって実行されている)を発注する。それが完成しても、その国にはローンの返済を続けるような資金余力は持ち合わせていないのが通常であるから、結局ローンを支払えなくなり、デフォルトに陥る。そのとき中国はもとから狙っていた、例えば港を長期租借する契約を結ぶのである(かつての香港のような話)。こういう事態に陥っている代表的な事例がセイロンで、その港は上記の過程により中国が租借するに至っており、そして中国海軍がそこを拠点として使うということが現実化している (類似の例は、パキスタンにも見られる)
  中国はこうしたことを世界的に展開しているのである。とくに最近目立つのは、アフリカ大陸全土にわたって、中国はこの政策を敢行しており、かつてアフリカ大陸が西欧列強の植民地であったという時代から、いまでは中国がアフリカの覇権を握るような事態になっているのが現実である(そのため、とくにフランスでは焦燥感が漂っている)。最近の事例では、ジブチやザンビアが典型的な事例である。とりわけアフリカ東端にある小国ジブチは、紅海の入口にある重要な戦略的位置を占める場所にあり、そこを中国が実効支配するに至っているのである。またザンビアでも有力な鉱山、飛行場などが中国企業の傘下になっている。ケニアでは中国は超高速鉄道の建設に関与している。中国はデフォルトした場合に、それを契機に有力な鉱山資源を手に入れ、それを開発して中国に輸出するという行動をとっている。こうした現象は「デット・トラップ」と呼ばれている。

注意すべきは、中国にあっては、こうした一路一帯戦略の行使前から、アメリカに代わる国として、自らが中心となった世界体制の構築を試みていることである。それらを代表するものとして、上海協力機構、アジア・インフラ投資銀行(AIIB) [IMF &世銀に相当]、シルク・ロード基金 (Silk Road Fund) がある。

*この「デット・トラップ」はデット・クライシスでもある。開発途上国は、全体に巨額の債務を抱えている。そしてそれらはドル建てで組まれるのが通常であるが、近年FRBは金利を上昇させる方向に転じているから、それはこれらの国から見れば、ドル為替の上昇(現地貨幣の下落)とインフレを招くものであり、返済がきわめて困難となり、デフォルトの危険性が増している。UNCTADIMFなどがこれら諸国もつ危険性について警告を発しているほどである。

 いまでは世界中どこにでも中国の影が(見え隠れというよりも)見えている。南米大陸にも中国の影響力は顕著にみられる(最近ではベネズエラ支援の行動に出ている)。パキスタンへの強力な介入はいうに及ばず、マレーシア(最近、首相が代わり、元首相は収賄容疑で逮捕されている。高齢の新首相は、最近、中国のデット・トラップ政策を明確に批判する発言をしていて、注目されている)、カンボジアなどのインドシナ半島、セイロン(セイロンでは港湾を実質乗っ取っており、そこを海軍基地にしている)、さらにははるかバルカン半島もその掌中に収めており (モンテネグロでの高速道路の建設等々。EUは、バルカン諸国がまだ未加盟であったりしていることや、資金供与に消極的であることもあり、バルカン半島の期待に応えることができておらず、そこの間隙を中国は突いている)、枚挙に暇がないほどである。オーストラリアも、その資源は中国への輸出に依存しており、そして中国からの諜報的な干渉問題も現在、大きな政治的争点になっている。南シナ海領域も、中国の一方的な領土基地建設化行動により、自国領土を主張するという露骨な行動に出ている。

*アテネの港 (ピレウス) の重要な部分は中国が握るに至っている。

 これらの点において、中国に比べてのロシアの行動は取るに足らないものである。ロシアが行っているのは、西欧への反EU的政党への献金とか、アメリカを含む諜報活動の活発化といったものである。中国との差は経済力そして人口の差にある。
 
 また、これらの点では、オバマ政権のときにはすでにブッシュ政権のアフガン戦争・イラク戦争を回収・撤退する方針がとられていたこと、また2011年の「アラブの春」の想像を超えた展開のなかで、北アフリカ、中東が無法化地帯と化し、結果的にアメリカの影響力は大きく削減されていたが、トランプ政権になってからは全世界的に「孤立化政策」を進めてきており、世界への影響力は一層下落、そして米ロが諍いを続けるのをよそめに、中国がその結果できた間隙を、着々と「一路一帯戦略」を遂行することによて埋めている、という構図が続いている。

*最近、イランがアメリカの経済制裁の強化に窮し、資金援助を中国に求めるということが発生している。それにたいし、中国は積極的な対応を見せている。

中国のこの壮大なスケールでの覇権行動は、考えてみると、史上初めてのことだといえるかもしれない。アメリカは一国で世界を支配したのはわずか15年足らず (しかも安定したものではなかった) である。事実上の覇権国家となったのは、第2次大戦後の冷戦体制になってからである。この場合でも、中国の「一路一帯戦略」のような露骨な戦略をとったわけではない。ソ連との対抗軸としてその地位を確立したのである。

中国は、情報網を張り巡らして、国民の個人的レベルでの監視強化を徹底させる方針をとっている。つい最近ではグーグルとのあいだで情報網を監視するソフト(ドラゴンネットと呼ばれている)の開発を進め、グーグルが中国(共産党)の軍門に屈し云々が大きな話題になっている。

オーストラリアは中国との経済的結びつきが強いが、ここにきて中国からのスパイ活動が両国間の大きな政治的争点になっている。

もともと中国には多数の米企業が生産拠点として入り込んでいるが、そこには必ず中国諜報関係者が経営陣に入り込んでいる。そしてそれを通じて、高度の産業機密が共産党側に流れ、中国の経済発展の高度化を一層助けている、といわれている。いわばグローバリゼーションの恩恵を一層、自らのものにする手段をとっているのである。

こうしたことが、覇権国家中国によってとられていることは、今後の世界体制の動向を考えていくうえで、重要な視点になっている。

しかも、米ソ冷戦体制にあってはイデオロギー対立が大きな陣営分裂の基本となっており、世界のそのほかの国はこのイデオロギー(資本主義と共産主義)をもとにして、かつ軍事的な連携 (NATOなど)を中心にしつつ、副次的に経済的連帯を伴いつつ (マーシャル・プランはその強力な実行プランであった)、実現されたのである。

これにたいし、中国のとっている戦略は独特のもので、自国の経済力をもとに「一帯一路戦略」を通じて、経済的に支配地域を拡大していく(そしてつねに政治的影響力の行使を考えている)という方針を貫いている。

現在、グローバリゼーションを声高に唱道するのは、アメリカではない、中国なのである (トランプは、先日の国演説においてもグローバリズムを否定し、「愛国主義」を唱えている。もっともトランプはロシアに国を売っている愛国主義であるが)

米中露の三極体制が、今後、どのようなかたちで収束を見せるのかが注目されるところであるが、明確なのは、核軍事力においてはロシアは米と張り合えるが、経済的には(その軍事力も背景で生かしながら)中国が米を凌駕するような様相を見せながら、より大きな覇権国家になっていくという展望が見えてくる。

こうしたなか、日本がとるべき立場はどのようなものになるのであろうか。1つはトランプが続くかどうかにも依存するが、もはやアメリカにおんぶにだっこという状況は、客観的に見て終わりを告げている。すでに日本は中国の一路一帯路線のなかに、躊躇しながらであるが、メガバンクなども関与を始めるなどしている。米中の両者にどのようなスタンスをとりながら、生き残りを図っていけばいいのか、日本も (EUと同様に) 難しい局面に直面しているのである。

つい先だってまで、BRICs という言葉が流行語になっていたが、その後はそれほどの実態をもつことはなく今日に至っている。ブラジルは、ペトログラスをめぐる広範囲におよぶ政治腐敗により政治的破綻を起こしているし、ロシアは経済的にはとくに目立った業績を達成しているわけではないうえ、数次にわたる経済制裁により、むしろ苦しんでいる。中国は上記のようにすでにヘゲモンである。唯一注目に値するのが残るインドであり、インド(モディ首相)については、将来的な可能性も含め、別途扱う必要が出てきている。
つまりは、BRICsという言葉は実態を伴うものではない。米中露、そしてインドとして扱うべき問題であろう。
 
 *「s」はときおり、「南ア」を指すものとして使われていたが、この国もブラジルに似た状況で、政治腐敗、それに人種問題 (逆アパルトヘイト) などでかなりひどい状況におかれている。