日本国際経済学会報告 (2013年10月12日 [土])於横浜国立大学
世界資本主義はいずこへ
- 金融の自由化と不安定性を中心に -
1. グローバリゼーション ー 生じたこと
・金融のグローバリゼーション
(i) 米英金融資本によるリーダーシップの奪還
(ii) 世界経済の不安定化
・冷戦体制の終焉と資本主義システムへの収束化
ー市場システムのグローバリゼーションI
・新興国の台頭
ー市場システムのグローバリゼーションII
(ネオ・リベラリズムからの支援、社会主義的思想の凋落、資本の自由化)
・本報告・・・金融の自由化の進展、世界経済の不安定化、それにた
いする対処策の現状をアメリカを中心にみる。
2. 金融自由化の実現化過程
・1960年代 銀行による市債市場参入要求、 1970年代 証券業界、銀行的業務に進出
GS法の換骨奪胎化過程
(i) 金利の統制 (「レギュレーションQ」)
・・・1986年撤廃
(iii) 州際間業務の規制・・・1995年撤廃
(ii) 銀行業と証券業の分離・・・FRBによる一連のGS法の拡大解釈行動
・1999年 GLB法 (GS法の撤廃) 3.世界金融システムの不安定性
(i)「シャドウ・バンキング・システム」の肥大化
・既述の規制緩和運動の結果、どの機関の監視からも逃れ、自由に活動できるヘッジ・ファンド、「投資ビークル」(SIV)、「プライベート・エクィティ」などの金融機関の輩出
・資金調達手段としての(MBS [住宅ローン担保証券]、CDO、CDSなどに代表される)「証券化商品」の開発、およびレヴァリッジ
・銀行も「投資ヴィークル」を用いてSBS活動の展開
(ⅱ) 2つの事例
・ 1997-8年のアジア金融危機・・・ヘッジ・ファンドによるバ
ーツ攻撃、LTCM危機(当初50億ドル、1998 1000億ドル、1
兆ドルのポジション 150名ほどの規模)
・ サブプライム・ローン危機・・・サブプライム・ローン、証
券化商品の階層化・乱発と格付け機関のずさん
4.「金融自由化」考
金融自由化が世界におよぼした影響:3つの側面からのアプローチ
(i) 覇権国家アメリカにとっての意義という、政治経済学的色彩
の強い側面
IMFや世界銀行を通じた「ワシントン・コンセンサス」
アメリカの経済学者(A. シュライファー [庇護者はL.サマーズ])
を招聘して、資本主義の「ビッグバン」的導入の遂行、ネオ・
リベラリズム、「新しい古典派」「金融工学」からの支援。ク
レプトクラシーの常態化
(ii)「金融のための金融」、「金融資本による利殖追求
の自己目的化」の膨張・暴走による資本主義経済の
健全な発展阻害の拡大という側面
(iii) 日本にたいしては不利に、BRICSにたいしては有利に
作用することになったという側面 → その結果、世界経
済における日本のプレゼンスの急落(「失われた20年」の
本当に意味はここにある)
5.金融規制改革の必要性
(i) 「歪む資本主義システム」
・GDPの分配率を意図的に自らに有利なものにする「レント・シー
キング」的側面
・メイン・ストリートの発展に寄与するという金融本来の役割の無視
・金融機関が自由化の名のもとに行ってきたことは、自由の名をか
たった市場の「不在化現象」、市場の「不透明化現象」を現
出させる行為
・金融市場に明確なルールをつくることはきわめて重要であり、それを放置することを金融の自由化と同一視するのは誤り。本来、自由化とはゲームのルールのもとでの公正な競争であるべき。
・ルールをなくし、市場を無視し、透明性を欠如させた環境下での競争は、誰かが獅子の分け前を不当にせしめる行為につながる危険性が高い。
(ii) 迫られる「自由」概念と「市場」概念の再考
・資本主義経済は「自己責任のシステム」である、と声高に唱道されてきた。
・資本の短期移動の極端なまでの自由化、 金融工学の勝利として「証券化商品」の極端な多層化世界的金融機関の崩落と真っ先の救済、かつ経営陣の責任不問状況
・大衆は住宅を差し押さえられ、ローンの支払いは残されたままの状態におかれた。彼らには「自己責任」原理が押し付けられている。
・市場の「不在化現象」と「不透明化現象」の推進
・市場を神聖視することの誤り。
「市場」を隠れ蓑にした利己的行為。
「曖昧さ」、「GDP分捕りの場」という側面
6. DF法とその現状
・「ドッド=フランク法」(2010)・・・SBSの根絶と金融市場を政府の監督下におくことで、健全な市場経済を復活させる法的枠組みの再構築を目指したもの
(i) 基本的な枠組(消費者金融保護局、「ヴォルカー・ルール」、
OTC (Over the Counter) デリヴァティブの廃止と公開市場の創設、システミック・リスクを防止するための委員会の創設、巨大金融機関が破綻しそうな場合、そのスムーズな清算・解体を自らにさせる方策
(ii) 実施現況
・・・ その実施は共和党の強硬な反対(下院での廃案決議やCFPB
任命妨害) と銀行界からの強力なロビー活動に阻まれて、いまに至るもきわめて不十分な状況 (いまだに実施は遅々たるもの)
(1) バーゼルIIIによる資本ルールの遂行・・・実施はこれから
(2)大銀行へのストレス・テストおよび資本計画の要求・・・実施はこれ
から
(3) 大銀行への堅実性 (prudence) 向上の要求
規則は決定している。
(4) 大銀行の破綻処理の実行可能性の改善
規則は決定している。
(5) ヴォルカー・ルール ... 決定していない。
(6)デリヴァティブ排除条項 ...猶予条項あり。
(7) シャドウ・バンキング・システム対策...これから実施
(8) 単独での相対取引 (OTC) への貸付額規制問題
ドッド=フランク法は、上記に示したように、「最近になって」かなりの組織化が進行してきたが、まだ最終的な実施に向けて解決しなければならない課題も少なからず残されており、道半ばの状況にある。いまだに「緒に着きかけている」という状況である。 補足 イギリス・・・『ヴィッカーズ報告』に基づく「リング・フェンス方式」をもとに考慮中 ユーロ圏・・・ヴォルカー・ルールをとるべきか、リング・フェンス方式をとるべきか (ドイツは3月に、「リング・フェンス法」を下院に提出した。これは『リッカネン報告』に応じたものである。ECBはリング・フェンス方式に懐疑的である)、あるいは双方を取り入れるべきかを考慮中。 さらに「バンキング・ユニオン構想」(EUの一番好むものだが実現は至難) や「金融取引税」 (FTT.トービン税) が浮上している。以下では一番進行しているFTTについて述べる。 ・FTTは2010年6月に初めて討議されたが、EU全体ではうまくいかず。 ・2012年10月、欧州委員会は、参加希望国に対しては「増強された協力」が認められるという案に変更。11カ国のEUメンバー国が賛成し、2012年12月、欧州議会で承認 ・2013年2月、欧州委員会は多少変更した案を提出し、7月に欧州議会で承認。この実施には、参加国全員の承認が必要 7. むすび
・ 金融を抜きに資本主義システムの存続を考える
ことはできない。
・ だからといって、金融を自由放任状態におくなら
ば、より深刻な経済破綻が今後も繰り返される。
・金融システムを適切にコントロールしながら、
「正しい資本主義」を維持・発展させていく方策
を制定する必要性 ・・・ でなければ、資本主義
の将来はきわめて危うい。