(このあたりを、ケインズの『一般理論』形成過程との関係で理解するには、『ケインズの理論』(東大出版会、2003年) pp.334-336 [第8章4.ホートリーの経済学と彼のケインズ批判]を参照されたい。) Hawtrey,The Art of Central Banking, 1932 Ch.6 Mr. Keynes’s Treatise on Money (ホートリーと『貨幣論』) ホートリーの『貨幣論』にたいする基本的な批判的見解とホートリー自身の考えを知るための絶好の資料 1. 基本方程式が示していることと言えば、価格水準は2つのターム - すなわち、単位当たりの費用、および価格と単位当たり費用の差額 -で構成されているということだけである。 ・・・ 「基本方程式」批判 2. したがって、貯蓄と投資の差は、意図せざる利得と損失、あるいは産出物の価格と費用の差の別名にすぎない。(p.336) 3. ケインズ氏は、未販売のストックの蓄積は小さいから重要ではないと想定する傾向がある。 … だが、それが重要でないということはない。というのは、販売の変化に遅れる価格の変動のラグにとって、それは不可欠の条件であるからである。価格の下落、そしてそれゆえに意図せざる損失が、需要の縮小の後に生じうるのは、このラグに負っている。そしてその間に生産活動の大幅な落ち込みと失業の増大が生じるかもしれないのである。 需要の落ち込み → 産出量・雇用量の落ち込み → 価格の下落 (売れ残り在庫の累積) 4. 彼 (ディーラー) は、そのような変動の最初のインパクトを彼の在庫に向けるであろう、そして彼の在庫が不都合に執拗な変動に直面するとき、価格か産出のいずれかの変更を考え始めることであろう。そして彼が産出の現象と価格の下落のいずれかの選択に迫られる時、彼は、おそらくはまず最初に産出の減少を選ぶことであろう。 3、4 はホートリーの重要な考えである。 5. もしケインズ氏の定義をその論理的結論にまでもってくるならば、彼の基本方程式は、すでに市場で有効になっている価格と費用の現実の変化に厳格に縛られていることに、われわれは気がつく 6. 私は、企業家の心理についてのケインズ氏の考えをまったく受け入れられない。私は、どれだけを生産するかについての決定は、主として現在の需要 ―小売り販売量とディーラーから生産者に発せられる注文によって測定されるところの ― に依存するのであり、将来の価格についての予測は通常、二次的要因である、と考えている。 7. … 貯蓄と投資の差は、意図せざる損失あるいは利得の原因とみなすことはできない。というのはそれは意図せざる損失あるいは利得そのものだからである。因果的継起を見つけるためには、われわれは消費および資本支出に関係する決定に向かわなければならない。われわれがそうしたとき、意図せざる損失とか利得とかはいくつかの結果のうちの1つにすぎないこと、そしていずれもが最も早期のでも、あるいは最も重要な結果ではないことが判明する。 8. … われわれは基本方程式、そして消費されなかった稼得として貯蓄を定義したり、消費されざる所得として投資を定義することを放棄することができる。そして、それらが用いられるところではどこでも、消費されざる所得として貯蓄を、資本支出として投資を定義しなおすことでそれらに変えることができる。 「基本方程式」を捨て、貯蓄、投資の定義を変更せよ。 9. 生産的資源のいかなる過小雇用も、不均衡の一形態である。つねにプラントの過剰能力は想定されるかもしれないので、この均衡のテストは失業労働の存在である。これは通常、需要の縮小 ―これはまたストックの蓄積と価格の下落を引き起こす ― の結果として生じるであろう 10. ケインズ氏の定義の欠点は、それらが … 価格と費用の乖離にあまりにも集中している点にある。… ケインズ氏が、貯蓄と投資の差を決定する「決心」に関して述べていることは、すべて投資と資本支出の差に、実際には適用されるものである。 11. … 私は一貫して、信用の加速あるいは減退は、消費されないマージンの変化をつうじてではなく、消費者所得と消費者支出の変化を通して、価格水準および生産活動に作用するという理論を主張してきた。… 12. … 大いなる程度において、失業は価格の下落の介入なしに需要の縮小から直接に生じる。 … 稼得の必要とされる現象は、賃金の下落はほとんどみられないかたちで、専ら失業を通じて達成されるであろう。... |