2017年5月2日火曜日

 市民講座:さまよえる世界経済 平井俊顕 (上智大学)

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        市民講座:さまよえる世界経済
      
                             平井俊顕 (上智大学)

本講は、主として2008年前後から現在に至る世界経済のさらなる変動を、アメリカ、EU、日本を対象に、実行されてきた経済政策や支配的になった経済理論にも配慮しながら、説明しようとするものである。だが、資本主義を理解するためには、経済学者がどのような資本主義観を展開してきたのかを参考意見として知ることも大切である。さらに、現在の世界経済の危機にさいし、改めて注目を浴びているケインズの理論・思想などを知ることも有益である。さらに、もう1点不可欠だと思うのは、政治経済学的視座 (とりわけ地政学的視座) である。

これらを通じ、資本主義経済とは何なのか、資本主義はいずこへ向かおうとしているのかを追究すること、これが本講の主たる目的である。

現在、アメリカ経済は他の先進国に比べるとかなりの好調を維持している。しかし、政治的には「唯一の超大国」という地位を、ネオ・コン」ブッシュによるイラク戦争という嘘で固めた理由での侵略とその結果生じた混乱、そしてそのことで拡大した「アラブの春」への対処ができないなか、喪失し、いまではロシア、中国が超大国として世界の政治・経済システムに大きな地位を占める状況が現出している。

さらに、アメリカは、トランプの勝利により、きわめて不安定な状況に突入しており、これからのアメリカ経済の行方にも不確実な要素がかなり強くなっている。

EUの状況はもっと深刻である。なによりも、EU圏は、リーマン・ショック後、長期に及ぶ不況に陥っている。とりわけユーロ危機の発生により、そしてそれに対処する政策的失敗により、経済回復の道筋がみえない状況に陥っているメンバー国が少なくない。それに追い打ちをかけたのが、2015年の中東からの膨大な難民の流入であり、この問題をめぐり、EU圏内ではほとんどのメンバー国において、極右政党が大きな影響力をもつ事態になっており、戦後のヨーロッパ統合を支えてきた中道右派・中道左派政党の激しい沈下現象が生じている。

世界経済の今後にとって大きな問題は、金融グローバリゼーションのもつ悪弊を規制する方策がきわめて不十分なままになってしまっていることであろう。アメリカでは、ドッド=フランク法が成立しているが、これもトランプ政権によって廃案にされる可能性が濃厚である (財務長官はゴールドマン・サックスの元幹部)。まして他の国では、金融グローバリゼーションを抑制する方策は存在しないも同然なのである。

こうしたなか、第2のリーマン・ショックの到来を否定することは非常に難しいのが現状である。そして最近、2つの国際機関 (OECDとUNCTAD) から、そうした可能性が途上国の債務問題から発生する可能性を述べる報告書が出されたばかりである。リーマン・ショック後の先進国の金融機関が、量的緩和政策を利用して、巨額の貸し付けを途上国に対し行ったことのツケが、襲来しようとしている、という趣旨の報告である。

世界経済は、依然として、海図のない大海を漂流している、というのが、偽らざるところである。

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本講は 3篇で構成されている。

第1篇「資本主義とグローバリゼーション」では、現在の世界資本主義がどのように進展してきて、いまどこにいるのかが、いくつかの視点から検討されている。

最初に、資本主義とは何なのか、グローバリゼーションとは何なのか、そして近年の世界経済にみられた金融の自由化とそれがもたらした不安定の実態、が取り扱われる (第1講から第3講)。

続いて、世界の先進国、アメリカ、EU、日本の経済がどのような問題を抱え、政府・機関はそれに対しどのように対処し、そしてその結果、どうなってきたのか、が検討されている(第4講から第7講)。

さらに、経済学はこうした現象にどのように関与してきたのか (第8講)、および地政学的にみて世界はどのように変動してきたのか (第9講および第10講)、が検討されている。
 
第2篇「資本主義をどう見る」では、これまで経済学者はどのような資本主義観を表明してきたのかについて、6名の知見をとりあげて説明している。現在の資本主義とは何かという第1篇のテーマを社会哲学的に追究するうえで参照にする狙いからである。これは、あくまでも一例にすぎず、多くの先人の見解を知る入口としてもうけたものである。

第3篇「ケインズの現在性」では、現在の資本主義を再考していくうえで - それは、理論、政策、資本主義観のいずれにも及ぶ - 大きな注目を浴びている、そして浴びる価値があると筆者も考える、ケインズについて、その経歴を振り返ったうえで、かの『一般理論』にはどのようなことが語られているのか (刊行から80年を経過し、いまでは本当の内容は忘れられている、と言ってもいい)という原点に立ち返り、さらにケインズが獅子奮迅の活躍をした国際通貨体制をめぐる立案と交渉をとらえ直し、そのうえで、ケインズの「今日性」に迫ることにする。ただし、最後の点はあくまでも一例であり、ケインズの真の理論・思想を学んでいくための入り口としてもうけたものである。ケインズのスピリットに則りつつ、自らの直覚と現実を直視し、かつそれを理論化すると作業を進めていくことを、われわれは何よりも要請されていることを自覚する必要がある。

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509 (200,229. 多数のフォト有り。新書で言えば320)

目次

プロローグ 

   第1篇 資本主義とグローバリゼーション

1  資本主義をどうとらえればよいのだろうか 

 1. はじめに
 2. 資本主義システムの問題点
 3. 資本主義システムのあり方を問う
 4. むすび

2  グローバリゼーションをどうとらえればよいのだろうか

 1. はじめに
 2.  5つの要因
 3.  4タイプのグローバリゼーション
 4. むすび

3  金融の自由化と不安定性を見る 

 1. はじめに
 2. アメリカの金融自由化
 3. 世界金融システムの不安定性
 4. 「金融自由化」考
 5. むすび

4  リーマン・ショックとアメリカ経済

 1. はじめに
 2. 財政政策
 3. 金融政策
 4. むすび

5講 アメリカの金融政策

1. はじめに
2.バーナンキの政策理論
3.  FRBの「非伝統的政策」LSAP
4. むすび

6  ユーロ危機、そしてEU危機 

1. はじめに
2. 経緯
3. 打たれた手
4. 不安な今後
5. EUの政治構造の激変
6. むすび

7  アベノミクス、長期低迷の日本経済

1. はじめに
2. アベノミクス
3. QEQQEのパフォーマンスの比較
4. 長期にわたる構造的問題
5. むすび

8  経済学はどうなっているのだろうか

1. はじめに
2. 展開過程の概要
3. 新しい古典派
4. ニュー・ケインジアン
5.ケインジアンとポスト・ケインジアンの諸見解
6.むすび

9  地政学的視座に立って見る

1. はじめに
2. 展開の概要
3. 「深層 & 真相」を覗く

10 トランプ政権を見る
    
1.はじめに
2.トランプ政権内の権力構造
3. トランプ大統領の行動
4. むすび
 
                  2篇 資本主義をどう見る

11  ケンブリッジは資本主義をどう見ていたのだろうか 

1. はじめに
2. ケインズ ニュー・リベラリズム
3. ロバートソン 自由主義的干渉主義
4. ホートリー ―「偽りの目的」の廃止と「真の目的」の達成
5. ピグー 社会主義の優位性
6. 比較評価

12  シュムペーターは資本主義をどう見ていたのだろうか  社会主義         社会の漸次的出現

. はじめに 
2. 資本主義社会の「積極的」(= 肯定的)特性
3. 資本主義社会の「消極的」(= 自壊的)特性
4. 社会主義社会の到来
5. 民主主義
6. むすび

13  ハイエクは資本主義をどう見ていたのだろうか 
          -「現場の人」と情報伝播としての「価格システム」

1. はじめに
2. 市場社会の本性
3. 自生的秩序としての市場社会 - リアリズムとイデアリズムの葛藤:
     フェイズⅡ
4. [補論] オーストリア学派の諸特性
5. むすび

       第3篇 ケインズの現在性

14  ケインズはどのようなことをした人なのだろうか 

1. はじめに
2. 子供の頃
3. 学生の頃、そしてフェロー
4. 1次大戦
5. 経済学者
6. 第2次大戦
7. むすび

15 『一般理論』てどのような本なのだろうか ― 原典を見据える

1. はじめに
2.市場経済のヴィジョン
3. 不完全雇用均衡の貨幣的経済学
4. むすび ケインズ革命の本質

16  国際通貨体制をめぐる攻防劇 ― ケインズ案 対 ホワイト案

1. はじめに
2.ケインズ案とホワイト案 
3. 両案の比較検討 - 1942年夏(両案の検討開始) 434月(両案の公表)
4. 両案の統合化過程 19436月-444
5. ケインズのスタンス
6.むすび 現在的意義をふまえつつ

17  ケインズの「今日性」を問う

1. はじめに
2.なぜ、いまケインズなのか?
3. 『一般理論』が投げかける「今日性」
4. 『一般理論』後の展開
5. むすびに代えて 戦後のケインズ経済学をケインズはどう見ただろうか

エピローグ