2017年4月3日月曜日

トランプ大統領の行動




トランプ大統領の行動

これまでとは異なり、共和党主流派とは無縁の状況で大統領になったトランプであり、これまで彼が指名した閣僚やアドバイザーも、これまでとはかけ離れたイデオロギーをプンプンさせる人物が多数入っている。しかも、今に至るも、少なからず重要な閣僚ポストが埋まっていない。最初の閣僚会議が開かれたのは3月下旬であった。そのうえ、大統領は大統領命令を連発するかたちで政治行動を実施している。ではトランプはどうやって意思決定を行っているのだろうか、ということが直ちに浮かんでくる問いである。
 見えてくるのはバノンとか、娘夫婦といったごく身近の側近と話しつつ、その政治的決断をツィッターで語ったりしながら ツィッターだから、話は短く、内容は断定的・独断的である 大統領命令 (Executive Order) を連発する、という異例のスタイルである。トランプを含め、皆、政治・行政には素人であるから、かなりおぞましい行政状況に陥っている。
チョムスキーは、「これまで15人の大統領を見てきたが、こういうのは初めて」とある番組で語っていた。また大統領の心理・人格分析を行ってきている精神科医等は、彼が精神的にきわめて特異である、と指摘している。トランプは自分しかみえない性格で、かつ注意力が非常に散漫である。トランプは、「自分」の考えがすべてであり、それ以外のことは瑣末なことという考えに取りつかれている。
大統領に就任してから、いま(3月末) に至るまで、彼が行動に移した重要な行政活動をみておくことにしよう。

2.1 イスラム国からの入国阻止行動
トランプは、イスラム圏7カ国 (6カ国)からの入国禁止令を大統領令として発した。これはスティーブン・ミラーによって考案されたと言われている。
 シアトルやハワイなどの司法当局は、これに異論を唱え、その実行を止めることに成功している。トランプはこれを「いわゆる判事が」「越権行為をしている」と激しく批判している。

2.2 オバマケア廃案行動と代替案の提示行動、そして脅迫的行動
トランプが次に打って出たのが、オバマケアを廃案にしてライアンケアに代える提案を義会で可決させる、というものであった。
トランプは例の強引さで、共和党議員に電話をかけまくり、直前においても「いまオバマケアを廃案にしないのなら、もうこの問題にはタッチしないが、それでもよいのか」的発言をしていた。だが、下院議長のライアンから、「必要な票数にはどうしても達しそうにない」との報告を受け、ついに、票決そのものを断念するに至った。新たな法案は共和党の極右からは「生ぬるい」として、また穏健派からは「これを実施すれば深刻な社会問題が発生する」として、賛成を得られなかったのである1
 
トランプは、この失敗について、ツィッターを用いて、自分以外のすべての人物に批判を投げている。他ならぬ、ライアンにたいしては意味深な発言をしている。「今日のフォックス・ニュースの午後9時のジェニン判事のショーを見なさい」と。それを見た公衆は、「ライアンは責任をとって下院議長を辞めるべき」という発言を聞くことになった。さらに、トランプのツィッター攻撃は続く。
共和党内の30名強の右派議員グループ「フリーダム・コーカス」(Freedom Caucus) にたいし脅迫的文言を発したのである。「健康保険法の件で、われわれのチームに加われ。そうしないなら2018年の選挙でどうなるか分からんぞ」と。
さらに、「われわれはチームで話しているのか、それとも君たちは立場を変えているのか」と発し、極めつけは、「共和党員のマーク・メドウズ、ジム・ジョーダン、ラウル・ラブラドールはどこにいるのか。オバマケアを廃案し、わが代替案に代えろ」と公衆の面前で名指しで攻撃しているのである。この3名は「フリーダム・コーカス」のメンバーである。

2.3地球温暖化否定
トランプが次に打ち出したのは、地球温暖化を否定し、パリ条約からの離脱を進める大統領令の発令である。すでにみたように、トランプが選んだ環境保護庁長官プルイットは地球温暖化説を否定する立場に立っており、そしてその見地からオバマ政権の「クリーン・パワー計画」にたいし、その停止裁判を起こしてきている。トランプ自体、EPAを嫌っており、そうした観点からこの人物を環境保護庁長官に据えたのである。上記の大統領令は、この路線を実行したものである。

2.4 外交政策
トランプは、外交政策の要となる国務省をまったく重視していないことは、国務省への予算をこれまでのほぼ3分の2に削減していることからも一目瞭然であるし、何よりも、国務長官ティラーソンをほとんど無視した行動をとり続けている。
トランプ政権は、これまでの戦後の重要な米欧の連携としてのNATO、さらにはEUにたいし、きわめて突き放した政策を打ち出している。3月に訪米したメルケルとのホワイト・ハウスでの会見シーンは、異常なものであった。階段の終わったあとの共同記者会見席での撮影にさいし、報道陣に「握手を」再三求められても、トランプは知らん顔を続け、メルケルが握手を促すそぶりをみせるも、無視、という異様なシーンが露呈していた。
 他方、トランプは軍事支出には突出した増加を決定している。つまり、ソフト・パワーである外交政策には資金を使わず (その意味で非常に孤立主義的政策)、ハード・パワーである軍事支出を激増させている。これにより、ISへの攻撃を強めようとしている。

2.6 ロシアとの関係
その一方でプーチン・ロシアにたいしてはほめることはあっても、一言も文句や不満、忠告を与えることはない。
 トランプがロシアと親密な関係にあるということは、たんに噂の問題ではない。FBIはプーチン・ロシアがトランプと通じて、昨年の大統領選挙妨害工作を行い、トランプの当選を助けたという件を本格的に調査することを宣言したばかりである。そしてこれには、かなりの確信をもってFBIは臨んでいるふしが認められる。
 トランプはこの件に関し、ロシアの関与を否定するばかりか、つねに、FBICIAというアメリカの情報機関を激しく論難する、という行動をとっている。
それに対抗して、(トランプがよくやる手であるが) 「オバマが諜報機関に指令して、トランプ・タワーに盗聴器をしかけた」とか、「オバマ政権に味方してイギリスが選挙妨害をした」とかいう話を持ち出している。しかし、トランプはこれらに具体的な証拠を何ら出すことができないままである。
 トランプ陣営のロシアとの深いかかわりは、諜報部員マイケル・フリンが当初、重要な役職についたことにも表れている2。トランプは、危険を察知して、即刻不倫を首にしたが、フリンは情報当局がかねてから危惧していた人物である。
ロシアとトランプの選挙介入問題疑惑をめぐっては、議会でもこの問題を調査する委員会の活動がある。その議長Devin Nunesはトランプに近い共和党の議員であるが、彼がきわめて奇妙な行動をとることで、審議の開催を延期するばかりか、情報当局から得た情報を、委員会関係者に知らせないで、直接トランプに知らせるという行動をとった。民主党側の有力議員によると、情報当局からの情報は、状況証拠などではなく、かなりトランプとロシア側の関係が明確であるようなものである、という。

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ブッシュの時代のネオコンは、覇権国家はアメリカだけであり、中国もロシアもそれにたいし従順であったなかで、さらなる覇権を追究したのだが、いまや地政学的状況は一変している。プーチンはロシア帝国の再興を、中国は王朝の再興を意識した行動を展開するに至っている。こうしたなかでトランプの「アメリカ第1」はどのような立ち位置に立っているのであろうか、立てるのであろうか。
 トランプの勝利は、反EU勢力を勢いづかせ、そしてプーチンは彼らにたいし、資金援助を続けていること(例えば、ルペンのナショナル・フロント)はよく知られている。トランプ自体、EUで親ロシア的傾向を明確に打ち出している。それは、EUを益々弱体化、分裂化させることにつながりこそすれ、アメリカを再び強大化することにはつながらないはずだが、トランプには、そういう発想はまったくみられない。
中東の情勢に米露が今後どういう姿勢をとっていくことになるだろうか。ロシアは、すでにシリアを抑えている。トランプはシリア、イラク、イエメンでの空爆を激増させ、表面的にはイスラム国の殲滅をうたっているが、話はそれが成功すれば中東に平和が戻るというような単純な話ではない。トルコとクルド族との関係、イランとサウジの関係、イスラエルとイランの関係、さらには
イスラエル1国の立場をとるトランプ政権は、世界が唱える「イスラエル・パレスチナ2国」の立場との敵対という問題を抱える。
  そして、それらと複雑に関係しながら、かならずやアメリカ・ファーストはロシア帝国の強大化をめざすプーチン3と、対決するような場面に遭遇することになるであろう。

さらに、トランプは、中国を経済的にかなり敵対視しており、中国にたいしてはおどろくべき高率の関税を課すことを政策に掲げたりしている。そのことで中国との対立姿勢は鮮明になっていくことであろう。ダボス会議でも明らかにされたように、中国がグローバリゼーションを唱えているのにたいし、トランプ政権はアイソレーショニスト的立場を標榜しているのである。