2016年9月3日土曜日

24 経済学は論理学、そしてモラル・サイエンス(一九三八年)





拙著『ケインズ100の名言』東洋経済新報社から


 24 経済学は論理学、そしてモラル・サイエンス(一九三八年)

 経済学は論理学の一分野であり、思考の一方法です。……経済学は本質的にモラル・サイエンスであって自然科学ではありません(ハロッド宛書簡、一九三八年七月四日付。JMK. 14, pp. 296-7)。

 これは計量経済学の先駆的業績であるヤン・ティンバーゲン(Tinbergen1939])をめぐり、ケインズとハロッドのあいだで交わされた書簡の一節である。ティンバーゲンに対するケインズの評価は徹頭徹尾、厳しいものであった。その際、ケインズは自らの経済学に対するスタンスを次の二点におく。

一つは、経済学を論理学の一分野とみなすスタンスである。経済学はモデルの改善によって進歩するが、可変的な関数に実際の数値を当てはめるべきではない。統計的研究の目的は、モデルのレリヴァンス・有効性をテストすることにある。この背後には『確率論』(JMK. 2)で展開した理論が確実に存在する。だがケインズの経済学が、計量経済学および一般均衡論の発展と連携してマクロ経済学の主流となったのは皮肉である。

もう一つは、経済学をモラル・サイエンスと特徴づけるスタンスである。これは、内省と価値判断を用い、動機、期待、心理的不確実性を扱う科学と定義されている。「新しい古典派」のような「形式主義」と真っ向から対立する方法論である。

 関連項目→18