2016年9月2日金曜日

Hayek, Adam Smith's Message in Today's Language, 1976. (Daily Telegraph, 9 March)  平井俊顕






Hayek, Adam Smith's Message in Today's Language, 1976.
(Daily Telegraph, 9 March)


                                  平井俊顕

アダム・スミスは自生的秩序論を展開しているとして、最大限にハイエクはスミスを評価している。それにたいして、「社会的正義」という概念は、部族時代からの「隔世遺伝」であり この認識は、論文「社会的正義という隔世遺伝」(1976)と共通している―、これは「偉大な社会」(Great Society)、もしくは「開かれた社会」(Open  Society)とは相容れないものである、と。スミスは社会主義の存在を知らなかったが、こうした考えをする人を「体系の人」(man of system)として ハイエクの用語でいえば、構成主義(Constructivism) 者として 批判している(つまり、チェスは差し手が駒を意のままに動かせるが、個々人が自らの行動原理をもつ人間社会にあっては、立法者が押しつけようとする行動原理と異なるため、社会はつねにきわめて混乱した状況におかれることになる、という『道徳感情論』でのスミスの発言を取り上げつつ)。

抽象的なシグナルである価格というものに動かされ、自己のために行動する諸個人 ― 個人は狭い理解力しかもっていない によって構成される社会の方が、特別の事例や状況、隣人の能力、気づかれた必要などによって動かされる社会よりも、はるかに優れているし、個々の事実についてのわれわれの無知を克服でき、諸個人に散在している具体的な状況についての知識を最大限に利用することができる。このことに気づいたのは、スミスの偉大な貢献である、と。

制度を意図的に作り出されたものとしてみるのをやめ、ある明白な少数の原理の自生的展開としてとらえる見方はスコットランドの道徳哲学者(ケイムズ、スミス、ミラー、ファーグソン)がなした重要な貢献であり、スミスはこのアプローチを「市場」に適用した、としてハイエクはスミスを高く評価している。