2017年11月4日土曜日

混乱とその結末   平井俊顕


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混乱とその結末   平井俊顕

だがこの後交渉は大いなる混乱が連続することになった第1はアメリカ側に見られた組織的失態がもたらした混乱である第2はイギリス側に生じた混乱で(イギリス) 閣僚会議と派遣団側のあいだでの激しい対立点の浮上である第3はその結果ブリッジズが派遣されケインズは代表の地位から降ろされるという事態の発生である第4はクレイトンはこの事態にたいしブリッジズが用意したイギリス案を否定し12月6日英米金融協定 (Anglo-American Financial Agreements) というかたちで見た決着である
 以下、これらについて、順次、見ていくことにしたい。


アメリカ側で生じた組織的混乱・無理解

11月19日に開かれたアメリカ金融委員会との会議において、アメリカ側は、予想されていた公式提案を示すことはなかった。アメリカ側は、前週の議論の基礎をなしていたのに似た別の粗い草案を提示し、それをめぐって議論は行われることになったのである。
ここに来て、交渉の局面は劇的な変化を見せることになった。この状況は、ケインズがイギリスに送った以下の2つから明らかである。

11月20日付けのブリッジズとイーディ宛の電信では、次のようなことが述べられている。

ここでの状況は悪化しており、さらなる遅れはわれわれの立場を弱めることは、疑いもありません。われわれは、部分的にはレンド・リースの突然の廃止に反対する見解の作用からくる良好な雰囲気でスタートしました。長びく交渉の結果、その効果、およびわれわれの当初の説明によって起こされたインパクトの効果は、いまや大きく消えてしまっています。本題は停滞したままで、あらゆる方向からのあらゆる種類の批判者や懐疑者が勢いを取り戻しています。

11月21日付けのイーディ宛書簡では、アメリカの組織的な怠慢について言及がなされている。

トップ・コミティで解決したとわれわれが思っているすべてのことは、その後、議論に参加していなかった専門家と法律家に、不正確に送られています。専門家と法律家は、われわれに相談なく作業を行い、われわれが同意していたものとは似ても似つかぬものを、上司に提出しています。これが、そのままアメリカのトップ・コミティに採用され、ほとんど最後通牒のようにわれわれに襲いかかっています。われわれは、それから、一連のいらいらさせられる会議で、完全にではなくとも、可能な限り本文を取り戻すべく全力を尽くさねばならないのです。こうしたことが、一度ではなく、何度も何度も起きています。

ケインズは、アメリカ側がとくに害を加える意図はもっているわけではないが、ただいまに至るも、われわれが実際にスターリング圏を特別勘定でどのように運営しているのかについて、何も理解していない、と不満をぶちまけている。さらに興味深いことに、この2週間、こちらが合意はほとんど不可能と思っているときに、アメリカ側は、問題点はほとんど残っておらず、すぐにでも合意に到達できる、と絶対的な自信を見せており、驚きを隠せない、と記している。

最後に、ケインズはこうした状況にあっても、交渉が合意に達することは、双方にとりきわめて重要であり、「いくつかの重要な点についてわれわれに交渉と妥協を行うのに十分な余地を与えて」くれることを、イーディ (ロンドン) に切望している、と記している。