2017年11月24日金曜日

(メモ) トランプ・アメリカ - 外部への影響力の劣化と内部分裂

イメージ 1



(メモ)

トランプ・アメリカ - 外部への影響力の劣化と内部分裂

トランプ政権の際立った特徴は、すべてはトランプの言動で決められている点である。
そしてそれは、異様なまでの自己顕示欲と密接に関連している。この超ナルシズムは、精神科医の学会から、「危険で大統領には適さない」宣言が、(本来、こうした行為は禁止されている)あえて発せられているほどである。
 彼は政策や理念といったこととは、ほぼ無縁の人間である。彼はまともに文章を理解する力がない。中学生以下であり、本を読んだことはほとんどない状態できている人物である。1ページの文書を読むのに、そしてその内容を理解するのに苦労する的状況である (が、トランプは、自分の知能指数はきわめて高い、とホラを吹き続けている。なにせ、大統領就任5日目で、ABCからのキャスターから「大統領職はいかがですか」と尋ねられて、すぐに話は「自分はリンカーンをのぞけば、歴史的にベストである」的発言をするほどの人物である。話のなかに、ウソ、もしくは、勝手に信じこんでいる、あるいは、自分の口から出る言葉は、以下に以前の話と矛盾するようなものであっても、「話したときに私の口から出た言葉はすべて正しい」とわけのわからん信念を強固にもち続けているのが、トランプの際立った特徴である。だから、彼が謝るということは、絶無なのである。

 閣議や、専門家から重要な情報やアドバイスを受ける、ということは、ほとんど行われていない。会議があってもそこで話されたことをトランプが理解している保証はまったくなく、翌朝早く、ツイッターで、「全世界」に向けて、神の声を発する(が、その内容は三文小説ばりの低俗な内容になっている。人をあざける言葉は日常茶飯事で、ヒラリーを呼ぶときは、つねに「クルキッド・ヒラリー」(ゆがんだヒラリー)である。彼女を、トランプがゴルフをしていてボールを直撃するビデオを公開で流すなどしており、その行動の異様性は群を抜いている、というか話にならない)のだが、それは会議などで話されていたことを反映させているわけではまったくない。本人が思うことを露骨な言葉で表現するばかりである。
 
 相手を馬鹿にするのは、敵にたいしてだけではない、というのがトランプの特徴である。自分の気に入らないことをすると、閣僚であっても容赦なく罵声を浴びせ続けている。司法長官セッションズにたいする執拗な攻撃はその典型である(が、セッションズは、辞めるつもりはない)。重要ポストについた人物で解雇された数は、史上最多である。
 そもそも、トランプは閣僚の発言を重視していない(自分の言うことを守っていればそれでいい、と考えている)。実際、財務長官が公の場で発言するシーンは、ほとんどないといってもいい(いまの財務長官はゴールドマン・サックス出身)。経済政策といったものは絶えて報じられたことはない。だれが担当しているのかも分からないほどの状況にある。
 外交政策はさらに顕著な異常さを見せている。本来なら国務長官の仕事であるが、ティラーソンは当初から重要任務からはずされてきており、何もできない状況が続いている。最も重要な業務を、娘婿のクシュナーに委任しており、しかもクシュナーは閣僚でもなんでもない、あらたに勝手に作られた職務である。中東問題の解決、中国との関係はクシュナーに委ねる、というのがこれまでトランプがとってきた方針である。そのため、国務省関連の重要ポストはかなりの数が空席のままなのである。これは、トランプが「アメリカをふたたび強く」と述べてきたことと大きく離反する行動である。アメリカはソフト・パワーを放棄してしまっているような有様である。

 覇権国アメリカという視点からみると、トランプは極端な孤立政策をとるとともに、覇権国の復活もしくは樹立を目論んで活動しているロシア、中国にたいし、きわめて「手玉にとられた状況に自らをおいており」、それをもってヨシとしている。なかでも、ロシア・プーチンにたいしては、態度的にも非常に卑屈にみえる対応をとっている。そして「プーチンに何度も尋ねたが、「選挙妨害工作はしていない」と繰り返し述べている。プーチンは、否定している。否定し続けている」としか述べていない。つまり、プーチンの言葉を信じればそれでいいのだ、と述べている。これは、トランプ陣営が、昨年、ロシア側と露骨な接触をトランプ・タワーで行うなどしていたことなどを指摘されると、「フェイク!」の一言で済ませ続けているのと軌を一にしている。
 プーチンの言葉を何の根拠もなく信じているトランプだが、一方、自国の諜報機関にたいしては、その調査をまったく無視し続けてきている、という奇妙な光景が展開されている。つまり、アメリカの大統領が、自らの諜報機関(CIA, FBI) を敵視し続けるという異様な状況が展開されている。CIA, FBIは、「ロシアによるアメリカ大統領選挙への妨害工作は行われてきた」と公式に表明しているにもかかわらず、そのトップたる大統領がそれらを「フェイク」で片づけているのである(もちろん、トランプ自身が被告席につくような立場におかれているのがこのロシア干渉なので、承認したくない、という気持ちが働くことはあるが・・・)。
 昨日、トランプは報道陣にたいし、「プーチン大統領と1時間半電話会談をした。シリアに平和を、という方針に賛成である」等などを話している。が、中東の今後の動向は、プーチン・ロシアとイランが牛耳る事態になってしまっており、アメリカが入る余地はきわめて少ないのが現状である。事実、プーチンはアサドやその他の首脳と、ソチで会談をもっており、トランプとの電話会談はその後のことで、トランプには椅子は用意されていないのが現状である。
 中国にたいしては、紫禁城への招待にいまだに浮かれ状態で、選挙公約の「中国製品に高率の関税を!」はすっかり脳裏から消えてしまっている。しかし、中国は、東シナ海での既得権益の拡張を着々と続けてきており、トランプはそれにたいして何も言えない状況におかれてしまっている。
 こうみてくると、外交的ネットワーク、さらに諜報活動はきわめて弱体化した状況におかれているうえ、台頭してきたプーチン・ロシア、習・中国の覇権国家的行動にたいしては、卑屈な姿勢で受諾することに満足している。EUとの関係がわけもなく冷え込んだままであり、メキシコやオーストラリアとも然りである。本来の友邦関係、同盟関係にあった諸国を自らの手で断ち切るような行動をトランプは取り続けてきており、ロシア、中国にとって、これほど動きやすい環境はない、と言える (日本に来る直前にハワイで、真珠湾攻撃の記念館を訪れ、日本に対する挑発的とも見える行動と発言を行っていたのも、トランプに特徴的な行動である)。

 覇権国家アメリカは、きわめて弱体化している。
トランプは、ソフト・パワーを弱体化させる半面、ハード・パワーとしての軍事費は激増させている。そして、自ら武器商人となって、サウジなどに軍事契約を取り付けることに熱心で、その都度、その成果を自慢しているほどである。
 トランプは自らの経済権益の拡大にはきわめて熱心であり、行く先々で、例えば、ゴルフ・コースの建設とか、自分のゴルフ・コースでのゴルフ・トーナメントの開催などを取りつけたりしている。
 こうした公私混同は、史上最大級の露骨な規模で行われてきている。娘婿やイヴァンカに重要な場に同席させ、ネポティズムは軍を抜いて露骨である。

***

こうした人物が、アメリカの大統領になった、という事実は、彼の上記のような異常性だけでは片づけることができない問題である。大統領は、核攻撃指令のボタンをもつ存在である。北朝鮮の金を「ちっぽけなロケット・マン」とツイートする行動をとる人物である。先日、米軍のある将軍が、「違法な核指令に、私は応じない」的発言をしているが、トランプが大統領職にあるかぎり、こうした危険性はつねにつきまとっている。
 韓国での彼の演説は、3分の1は北朝鮮にたいする強硬措置の威嚇[核攻撃]であり、3分の1は、女子ゴルフ選手権を自分のゴルフ場で開催する話であった(残る3分の1は、にわか勉強の韓国史)。これ自体、もう異常、異様としか言えない演説である。

***

 対外的には、きわめて稚拙、軟弱な行動しか取れないトランプであるが、これとは対照的に、対内的には非常に、人種差別的、そして共和党を撹乱に陥れる行動を取り続けてきている。彼はナチズム的シンパの立場をとっている。こうしたなか、共和党自体がモラル的に大きな危機に瀕している。支持母体からの圧力もあり、経済的利益の確保を優先して、トランプのとる政治モラル、価値理念の亀裂にたいし、あいまいな行動を取り続けているからである。
 
 いま、アメリカ政治が抱えている問題は次の点である。オバマケアのある事項にたいし大統領命令で州政府の保険会社への支払いをストップしており、これが発効すれば、きわめて多数の低所得階層が医療保険を受けることができない事態が発生する。
 議会では、「大幅減税」が重大な問題となっている。これは、何ら議会での審議が行われることなく、審議にかけられ、先日、下院を通過している。上院でどういう結果になるかが大いなる問題なわけであるが、これは、1%の超富豪にとっての減税であり、ミドル・クラス以下は増税負担を強いられるばかりである、というのが専門家の一致した見解である。
 もしこの減税案が通れば、莫大な政府収入減が到来する。それを補うために社会保障関連の支出を削減させることを同時に目論んでいる。
 上院は両党が拮抗しており、しかもトランプの政治モラルにたいする激しい批判が数名の共和党議員によって公表されている。52対49あたりなので、通過しない可能性も低くない。そしていま、アラバマ州で、ある共和党の人物が上院議員選挙に出馬しているが、その人物が14歳の少女にたいする行動問題が公にされ、アメリカはそれでもちきりになっている。

 アメリカは、社会的にはミドル・クラスの衰退が深刻な問題となっている。それに人種差別による亀裂が走り、若者は奨学金の多額の負債抱え込み問題に苦しんでいる云々。

 アメリカは、対外的に弱体化をみせているうえ、対内的に深刻な社会的亀裂に襲われている。そしてそれを是正する勢力がいまだ確たる勢力になりえていない状況が現出している。二大政党政治自体の危機的状況におかれている。
 これだけの事態を引き起こし、発する発言には必ず、複数のウソがあるフェイクの王であるトランプだが、トランプ信者(いわゆるベース)がトランプを依然として支持し続けている、というもう1つの現実がアメリカにはある。根は深いのである。