2016年1月23日土曜日
量的緩和政策についての覚書
量的緩和政策についての覚書
(1)本来のマネタリストの考えに沿った見解について
マネタリー・ベースの残高(銀行の当座預金残高)からマネー・ストックを推定することは不可能。
マネー・ストックは、銀行がどれだけマネタリー・ベースを用いて貸
し出しを実体経済に対して行なうのか、そして実体経済はそれを
用いてどのような経済活動を展開するのかに依存して、結果とし
て決まるからである。物価が算定されるのはそれと同時である
(貨幣数量説の言うようにマネー・ストックが物価(CPI)を決定す
るという因果関係はない)。
(2)本来のマネタリストの考えに沿わない見解 (インフレ・ターゲット
論)について
上記のマネタリストの考えに沿わない場合、マネタリー・ベースか
らCPIの2%上昇を実現させる方法はなくなることを意味する (沿っ
た場合でも実現させる方法はないのであるが)。とりわけマネー・
ストックには注目しない立場にたつわけであり、そうなるとマネタリ
ー・ベースは貸し出しに用いられなくともよいわけで、銀行はそれ
を寝かせておいてもよいわけである。
マネタリー・ベースからCPIの2%上昇を論証・検証できていない
状況で、そのルートとは異なる2%のインフレ期待を、人々に信用
させることなどできる相談ではない。
中央銀行がマネタリー・ベースを激増させ、そしてそれをCPIが2%
上昇するまでコミットする、と言っても、マネタリー・ベースはただ
激増するだけで、その後の経路は、人々の「予想」任せ、というこ
とになり、それでは2%の実現を人々に信用させることはできない、
ということである。
マネタリー・ベースとマネー・ストックの関係、さらにはそれが物
価指数(CPI)に与える影響と言うルートを考えないとなると、マネ
タリー・ベースの役割は何なのか、という問題に遭遇する。
中央銀行の論理からすると、予想実質利子率の下落がすべて
のようで、それが経済主体のポートフォリオ・リバランスをもたらす
ことですべてが上昇傾向に向かい、2%のCPI上昇がもたらされ
る、ということになる。
だが、中央銀行のコミットメントが2%のインフレを引き起こ
すメカニズムを説明できていない状況で、人々に2%のインフレ実
現を信じ込ませ、かれらを上記のリバランス行動に移す行動に向
かわせることは、無理であろう。
予想実質利子率に依拠した理論では、これだけをもとに
して、消費や投資行動は把握できるようになっている。
消費者は、予想実質利子率を信じることはない。仮に信じたとし
てもそれにより、預金を崩して、それを株式に向けることはない。
現状では、消費者はデフレ・マインドだから消費をしないのでは
なく実質所得の低下、非正規雇用の激増、そして将来の社会保
障への懸念などによって消費を増やさないのである。
仮に彼らの予想を2%上昇させたとしても、それで消費者の行動
が変わることはないとみるのが妥当であろう。
企業が投資を増やさないのは、内部留保を巨額に保有している
からだという。そしてそれは、 (予想) 実質利子率がマイナスにな
る、と企業が思えば、企業はそれを吐き出し、投資に向ける、と述
べているように思える。
だが、企業が国内で投資をしないのは、利潤を得ると見込めな
いからであり、保有する資金のコストだけの変動で動いているわ
けではない。