第5講
アメリカの金融政策
- FRBの政策理論とパフォーマンス
平井俊顕 (上智大学)
1. はじめに
90年代以降のアメリカは日本経済が苦しんでいた経済停滞とは無縁であった。グローバリゼーションの進展、IT企業によるイノヴェーションの躍動のなか、アメリカ経済は経済的発展を遂げていた。そうしたなか、景気が過熱したり、あるいは逆に景気が下降したりすると、その都度、FRB議長グリーンスパン (1987年から2006年) のいわゆる「グリーンスパン・プット」により、改善されてきたため、経済政策は金融政策 (財政政策は無視)のみ、かつそれは政策金利 (FF金利) のみの操作で、十分に景気変動を調整できる、という見解が経済学界・政策担当者のあいだで支配的であった。
ところが、2008年にリーマン・ショックが生じたことで、アメリカは結果的に日本と同じような状況に陥ることになった。両国ともに、「政策金利」を引き下げて深刻な不況に対処しようとしたものの、ついにはゼロ金利状況に陥ってしまったのである。そして「非伝統的政策」を採用するに至った。
こうした状況下にあって「非伝統的政策」をいかなるものとして構築するのか、そしてそれをどのように理論化したものとして提示するのかという問題が浮上したのだが、その基盤としての 地 位を獲得することになったのがバーナンキとラインハートが2004年に提唱した論文 ( Bernanke and Reinhart [2004]) である (以降、バーナンキの論文と呼んでいく)。
本講では、リーマン・ショックに対し、アメリカがどのような金融政策をと ったのかを述べていく。最初に、バ ーナンキの上記論文を検討し、続いてFRBがLSAPと呼ぶ「非伝統的政策」がどのように遂行されたのかを見ることにする。
2.バーナンキの政策理論
現在まで、日本、アメリカ、イギリス、ユーロ圏において、いわゆる「非伝統的金融政策」と呼ばれるものが ― それぞれの国の経済情勢、および金融に関するスタンスの相違を反映しつつ - 遂行されてきている (ただし、アメリカは2014年10月に終了している)。
この契機となったのは、伝統的な金融政策である「政策金利」によって経済をうまく運営できず、ついにはゼロ金利に張り付いてしまうという事態が訪れたことである。
このことが最初に生じたのが日本であった。日銀は、政策金利 (無担保コール・レート翌日物) をいくども引き下げたものの成果はみられず、速水総裁下の1999年、政策金利はゼロにまで引き下げられた (いわゆるゼロ金利)。そしてその後、日銀は「政策金利」に代わる政策として、「量的緩和」政策を、速水総裁および福井総裁下の2001年から2006年にかけて採用するに至ったのである。
その後、アメリカ、イギリス、ユーロ圏では、これまでの中心的な金融緩和策である政策金利 (アメリカはFF金利、イギリスはCurrent Bank Rate、ユーロ圏はMain Refinancing Operations)がゼロ、もしくはきわめて低い水準になっており、経済を立て直すのにこれ以上、この手法を用いることはできない状況に追い込まれていた。
こうしたゼロ金利下に陥った経済にあってとれる代替的な金融政策として提起されたのが、バーナンキの論文である。
提起されているのは、以下の代替案 (ただし、相互補完的) である。 [Alt-i] 短期利子率 (FF金利) についての予想の形成、[Alt-ii] 中央銀行のバランス・シートの構成の変更、[Alt-iii] 中央銀行のバランス・シートの拡大 (量的緩和 [QE]) である。以下、これらを見ていくことにしよう
([Alt-i]等の表記は、本講では一貫して用いていくことにする)。
2.1 [Alt-i] 短期利子率 (FF金利) についての予想の形成
これは、「金融投資家が現在予想しているよりも、短期利子率は将来低くなるということを、金融投資家に確約する」という意味である。短期利子率についてFRBが確約することで、将来の短期利子率について金融投資家がそれを信用する、ということである。そうなれば、期間構造全体の利率を引き下げ、他の資産価格を支えることができ、金融機関や経済活動に影響を及ぼすことができる、というのである。この論文では、このコミットメントが非常に重視されている。それが1番最初にあげられている理由にもなっている。
そしてこのコミットメントには、「条件なし」と「条件付き」の2種類があることが述べられているが、後者が現実的だと考えられている。いつまでその約束を守るかというときに、例えばある期間経済成長が実現しているとか、ある率を超えたインフレの継続、とかを条件にするとかいった事例が挙げられている1。
ここで注意が必要なのは、短期利子率 (FF金利) の今後をどうするのかはFRBが実行できる範疇にある、という点である。これは「インフレ・ターゲット」とは内容を異にしている。インフレ・ターゲットは、「ある時点までにインフレ率を2%にする」ということを約する政策であるが、それは中央銀行が実行できる範疇外の問題であるから、約束が守れる保証はまったくないのである。
2.2 [Alt-ii] 中央銀行のバランス・シートの構成の変更
具体的には、 (例えば) 短期の国債 (財務省証券 )を売 却し、長期の国債を購入することで (そして総額は一定に保つ)、中央銀行が保有する債券の期間構造を長期化する政策であり、「オペレーション・ツイスト」と呼ばれているものである。これによりFRBは期間プレミアム、したがって全体の収益率 (イールド)、それゆえ国債価格に影響を与えることを目指している。1つの極端な事例として、ある長期国債の収益率の天井を現行の率以下に設定するというものが挙げられている。ターゲットにした長期国債がその率になるまで、FRBは無制限に購入するというものである。
[Alt-ii] が有効なものかどうかについて、バーナンキはいささか懐疑的であり、それは財務省の国債管理政策 との調 整が必要であるとか、これまでの実証 研究ではそれほど有効な成果が認めら れていないとかが記されている。何よりも注目すべきは、 すべてこれらは将来の短期利子率についての投資家の予想との合致に依存していること が強調されている点であ る。
そして、[Alt-ii] は [Alt-i] を補強するためにのみ用いるのが賢明であると結論付けら れている。
これは、国債 などを大量に購入することで、中央銀行のバランス・シートを拡大させる(銀行の当座預金勘定も拡大する )、という政策であり、バーナンキ もこれを「量的緩和」(quantitat ive easing. QE) と表現している。つ まり、FF金利をゼロに保つのに 必要とされる以上額の国債購入によって生み出される現象である。
QEが 経済にお よぼす影響としては、3つのチャネルが考えられている: (a) ポートフォリオ代替チャ ネル、(b) 予想チャネル、(c) 財政チャネル
それぞれを見ていくことにしよう。ここでも、(b) と(c) においてそうなのだが、FF金利の将来についての予想という問題が絶えず意識しながら議論されていることに、注目されたい。
(a) ポートフォリオ代替チャネル
貨幣は他の金融資産の不完全な代替物だと前提すると、国債を大量に購入することで中央銀行にある銀行の当座預金の総額 (マネタリー・ベース)、そして市場に出回るマネー・サプライ (マネー・ストック) の総額を大幅に増大させ、そのことは投資家のポートフォリオを変更させることで、 物価を上昇させ、金融資産の収益率を引き下げる。長期の金融資産の収益率が低下すれば、経済活動が刺激されるであろう。
注目すべき点は、国債の大胆・大規模な購入で、マネタリー・ベースが急増し、それが(信用乗数を通じて)マネー・ストックを急増させ、「物価を上昇させる」とともに、「長期金融資産の収益率を引き下げる」ことで経済を刺激する、と述べられている点である。このうちの前者は、明瞭に「マネタリスト的な経路」2 3である。
前者の経路だが、バーナンキは2008年にFRB議長として非伝統的金融政策を実行する任についたとき、このルートを棄却している。それは日銀による2001-2006年の量的緩和政策において、マネタリー・ベースの激増からマネー・ストックの激増がみられなかったことに由来するものであった。この点は、第3節で述べるパフォーマンスにおいて考慮すべき変更点である。
(b) 予想チャネル
この意味することは、QEは、政策金利の将来の経路についての予想を変える効果がある、というものである。このことはすでに(a)を行うことで可能になっているのであるが、巨額のマネタリー・ベースの存在は、純粋な口約束よりも信頼のおけるものである、と論じられている。
(c) 財政チャネル
大胆なQEは財政的な効果をもつとされる。中央銀行は、有利子の国債を無利子のマネタリー・ベースと交換することで、政府の利払いの現在および将来のコスト、および公衆の税負担を減少させることになる。すなわち、直接税をインフレ税と交換する行為である4。
(b)と(c) は、QEをある条件がかなうまで続行するというコミットメントが必要であるから、ここでも金融政策当局者に対しコミュニケーションという課題が突き付けられている、と付言されている。
***
第2節を要約すると、次のようになる。1番の目的は、政策金利がゼロ、もしくはそれに近いきわめて低い利率になってしまった状況 下で、それに代わ る3つの金融政 策の提示であるが 、そこにおいて中央銀行のコミットメントがきわめて重視されてい る。[Alt-i] はその中核におかれてい る。[Alt-ii] は [Alt-i] の補助のように位置づ けられており 、[Alt-iii] において も、(b) は (a) と深く 関係 しているし、(c) も一種のコミットメ ントに関 係づけら れている。なお (a) は「マネタリスト的な経路」が含まれ ているが、この効果については後年、バーナンキはこれに は否定的になっている。そのため、「量的緩和」という用語を避 けて、彼が提唱する大量の 国債・債券の購入政策を、LSAP (La rge S c ale Asset
Purc h ase. 大規模資産購入) と名付けること になるのである。
以上の代替案を提示したこの論考の最後に、「低利子率の優先順位とコスト」という節が存在する。これは、3つの代替案を、そのコストを勘案しながらどのような優先順位で採用するのがいいのかを考察したものである。それらのコストにいろいろ言及のうえ、最後に次のようなアドバイスがなされている - これらの代替案の行使をめぐる大きな不確実性が政策行動の計算を困難にしており、さらにはこれらの政策が機能するうえで期待のはたす役割の重要性を考えると、コミュニケーションは非常に重要な問題である。だから、ゼロ金利になるまえに、事前に、かつ大胆に行動することが重要である、と。
3. FRBの「非伝統的政策」LSAP
バーナンキは、2006年FRBの議長に就任した。就任からまもなくの2007年、アメリカではサブプライム・ローン危機が発生し、翌年には、リーマン・ショックが襲うことになった。当初は、FF金利を下げて対処していたが、やがてゼロ金利状態に陥った。そこでバーナンキが2008年11月に打ち出したのが、バーナンキに特徴的な「非伝統的金融政策」である。それは、基本的に前節で検討したバーナンキ論文で提示されている提案に則ったものであった。
ただし、1点だけ、大きく異なっている点がある (繰り返しになるが、重要なので再度述べることにする)。
既述のように、2004年のバーナンキ論文では、「量的緩和によるマネタリー・ベースの増大が、金融機関の実体経済への貸し出しを増加させ、そして信用乗数によりマネー・ストックが増大し、その結果、物価が上昇する」という「マネタリスト的な経路」も考えられていた。これは「量的緩和」政策のなかでの1つの経路であった。
だが、2001-2006年に実施された日銀の量的緩和 (QE) で、そのような経路が機能していないことをみたバーナンキは、「マネタリスト的な経路」は考慮に入れないことを決めた。そして自らの政策を「マネタリスト的な経路」を考慮しているQEと識別するために、同じように国債やその他の証券を大量購入する政策に対し「大規模資産購入」(LSAP)と名付けることにした5。つまり、上記の [Alt-iii] のなかの (a) の後半部分の効果を念頭に置いた政策という位置づけになっている。
さて、バーナンキのFRBにおける金融政策だが、これは
[Alt-i] (短期利子率 [FF金利] についての予想の形成) とLSAPの組み合わせで運営されてきた。
[Alt-i] は「フォワード・ガイダンス」である。FRBは局面に応じて異なるタイプのフォワード・ガイダンス を実 施してきたが、注目すべきは、すべてFF金 利についてのコミットメントである、という点である。
目に見えた大きな変化をも たらしたという 点では、LSAPの方が明白であった。また、FR Bは、LSAPを 一時的なものみており、この弊害をかなり意識していたから、絶えず、「出口戦略」についての議論も続けていた、という点も注目に値する6。
それでは、実際にとられたFRBによるLSAPを見ることにしよう。
FRBのLSAPの特徴 - LSAPは3期に分けられる。 第1期(LSAP1)は2008年11月-2010年3月、第2期 (LSAP2) は2010年11月 – 2011年6月、第3期 (LSAP3) は2012年9月―2014年10月である。以降はいわゆる「テーパリング」と呼ばれている段階的縮小であり、2014年10月に終了している。
(なお、2011年9月以降、[Alt-ii] (オペレーション・ツイスト) が実施されている)。
それぞれの期において、著しくその目的が異なっている点が、(第7講で取り上げる) 日本の場合と異なっている。アメリカの場合、第1期は、リーマン・ショックの激震のもと、金融システムが崩壊しようとしているというまさに存亡の危機の時期である。
ブッシュ政権は、巨額 (最大7000億ドル) のTARP(「不良資産救済プログラム」) により、ウォール・ストリート金融業界を救済すべく、紙くず同然になったMBS (不動産担保証券) を買い取る計画を立てたのだが、これは成功せず、結局、2500億ドルを用いて9大銀行の株式を購入することになった。さらに政府は大手自動車メーカーの救済にまで手を広げることになった。
2009年から大統領になったオバマは、 (第4講で説明した) ARRA (総額8000億ドル) による巨額の財政政策を実施することでアメリカ経済の浮揚に尽力した7。
第1期 (LSAP1. 08年11月- 10年3月) が実施されたのはこのような局面のことであった。(表5-1) にあるように、FRBが購入対象にした最大のものはMBS (不動産担保証券) であり、1兆2500億ドルが注入された (対して、国債は3000億ドルにすぎない)。注目すべきは、この当時、MBSは価格の付かない証券であったという点である。これをFRBが買い取ることで、その保有に苦しむ銀行・投資銀行を救済したのである8。FRBが購入したのは、「その他」の項目に含まれている消費者ローンや自動車ローンもあった。FRBが不良資産を引き取ることで、金融部門が直接的に救済され、そのことで実体経済の再スタートが切られ、それがアメリカ経済の急速な回復をもたらしたと考えられる9 10。
第2期 (10年11月 – 11年6月) は、アメリカがようやく金融危機から脱出した時期である。と同時にこの時期になると、均衡財政への要望、緊縮財政への要望がアメリカ国内でも強くなり、オバマ政権・民主党は中間選挙で大敗を被ることになり、以降、財政政策は影をひそめることになった。このことは第4講で述べたとおりである。
それに代わって経済政策の中軸を担うことになったのが、LASPである。そこでの対象は専ら国債の大規模購入に向けられており、総額6000億ドルに達している。
すでに見たように、LSAPでは「マネタリスト的な経路」は考慮されていなかった。ではそれに代わり何が考慮されていたのかというと、資産の大量買い入れにより、長期利子率を引き下げることである(つまり前節で言及した [Alt-iii]の (a) の後半)。
第3期 (12年9月―14年10月) になると、LSAPの購入対象は、再び国債と並んでMBSになっており、ほぼ同額の購入である。このときの目標としては労働市場の刺激による景気の回復が謳われており、インフレ率が抑制されている状況が続けば、無期限に継続させるとされていた。
だが2014年になると、一転して、いわゆる「出口」戦略の実行に
移っている。FRBは絶えずLSAPのベネフィットとともにコストを意識した議論をFOMC (連邦公開市場委員会) で展開していたが、それを実行に移したわけである (いわゆる「テーパリング」)。結果、2014年10月にLSAPは完了している。
(表5-1) FRBのLASP
量的緩和政策
|
LSAP1
(2008年11月~2010
年3月)
|
LSAP2
(2010年11月~
2011年6月)
|
米国債
|
3000億ドル
|
6000億ドル
|
MBS
|
1兆2500億ドル
|
|
その他
|
1750億ドル
|
|
合計
|
1兆7250億ドル
|
6000億ドル
|
LSAP3
量的緩和政策
|
(2012年
9月~
2013年12月) |
緩和逓減
(2014年 1月) |
緩和逓減
(2014年2月~) |
・・・
|
緩和逓減
(2014年 10月) |
米国債
|
毎月
450億
ドル
|
毎月
400億
ドル
|
毎月
350億ドル |
・・・
|
毎月
100億
ドル
|
MBS
|
毎月
400億ドル |
毎月
350億ドル |
毎月
300億ドル |
・・・
|
毎月
50億ドル |
合計
|
850億
ドル
|
750億
ドル
|
650億ドル
|
・・・
|
150億
ドル
|
(出所) 河村 [2014]
(備考) 「・・・」: 各項目を段階的に縮小していく
4. むすび
アメリカでとられた金融政策であるLSAPは、日本でとられた量的
緩和政策とはかなり異なっており、状況に応じて、とられている政
策ターゲットに明確な相違が認められる。何よりも、リーマン・シ
ョックで崩壊寸前にあったアメリカの金融業界と金融市場を救済す
ることが第1期の重大な目的であった。アメリカが金融危機から脱
した後に行われたのが、国債の大規模購入を行う、通常の意味での
「量的緩和政策」であり、これが第2期である。第3期では、国債
とMBSを同額購入するかたちの「量的緩和政策」になっている。そ
して2014年になると「出口戦略」の実行に移っており、10月にはそれ
を完了している。そしてその意図を理解するには、バーナンキが議
長になるまえに書いていた既述の論考を理解する必要がある。
1) これは、(この言葉は用いられていないが)「フォワード・ガイダンス」に該当する。
2) マネー・ストックが増大し、そこから物価が決定するというのであれば、それは貨幣数量説の世界であって、ケインズ理論の世界ではない。後者にあっては、物価は経済過程の終盤に得られる (確定する) 概念である。この点についてのケインズの考えは第14講で述べることにする。
3) バーナンキの関心は、(ケインズではなく) 専らフリードマンに向けられている。「マネー・ストックから物価というルート」、「ヘリコプター・ベン」、「バーナンキの背理法」、「ケチャップ談義」などを挙げれば十分であろう。
4) これは極端にいけば「財政ファイナンス」という色彩を帯びることになるが、バーナンキは、そこまで考えて述べているわけではないように思われる。
5) 2008年12月のFOMCにおいて、バーナンキは、日銀のQEでは「マネタリスト的な経路」が考えられていた、と述べている。そしてそれが機能していないことをみて、それとは異なる政策を考える必要あると論じている。加藤[2014]を参照。
6) 簡単にイギリスとユーロ圏の「非伝統的金融政策」に触れておくことにする
イギリスの場合、インフレ・ターゲットと量的緩和が、リーマン・ショック直後からとられたが、そこには「マネタリスト的な経路」が明確に表明されていた。また、イギリスではAPF (Asset Purchase Facility) という子会社を設立してQEを遂行させる方針がとられた。2013年8月からは「フォワード・ガイダンス」が採用されることになった (日銀の[黒田総裁下の] QQEと異なるのは、いつまでに2%のインフレを達成させるというかたちをとるのではなく、いわゆる「アウトカム・ベースのフォワード・ガイダンス」をとっている点である。もう1点注意が必要なのは、イギリスの場合、インフレ率は2%を上回るのが常態であり、それを抑制するという意味をもっている)。
ユーロ圏の場合、つまりECBの場合、以前からの「有担保方式のリファイナンシン
グ・オペ」の拡大と政策金利を採用していた。インフレ・ターゲットは採用せず、
「安定志向の2本柱アプローチ」である。2013年7月には、「フォワード・ガイダンス」
が採用されたが、これはFRBの [Alt-(i)] に類似している。以上は河村[2014] に負って
いる。
7) 詳しくは第4講を参照。
8) このような状況下で [Alt-i] は何の役にも立たないものであったことであろう。
9) ただし、救済されたメガバンクは、救済された資金をBRICsや発展途上国に
融資したり投機活動に投入していくことになった。これらの活動への規制は実質的になかったのである。その結果、これら諸国は現在、膨大な負債を抱えるに至っており、第2のリーマン・ショックが懸念される事態を招いている (2016年、秋のUNCTADによる報告)。
10)
この点で、金融のメルトダウンに陥っていなかった (90年代後半の金融危機からは解放されていた) 日本経済とはおかれている状況は基本的に異なっている。
Bernanke, B. [1983] “Nonmonetary Effects of the Financial Crisis in the
Propagation of the Great Depression”, AER,
June.
Bernake, B. [1988] “Credit, Money, and
Aggregate Demand”, AER, May.
Bernanke, B.S. and Reinhart, V.R. [2004] “Conducting Monetary Policy at
Very Low Short-Term Interest Rates”, Jan.3, 2004 (AER, 94 (2), 2004, pp. 85-90).
Fisher, I. [1933], “The Debt-Deflation Theory of Great
Depressions”, 1(4), Econometrica, pp.337-357.
Krugman, Paul [1998]: "It's Baaack: Japan's Slump and the Return of the Liquidity
Trap", Brookings Papers on Economic Activity, No.2.,
pp.137-205.
Minsky, H. [1992] “The Financial
Instabili ty Hypothesis”, Working Paper No.74,
Levy Economics Institute of Bard College.
加藤出 [2014]『日銀、「出口」なし!異次元緩和の次に来る危機』朝日新聞出版.
河村小百合 [2014] 「海外主要中央銀行による非伝統的手段による金融政策運営と課題」JRI レビュー, Vol.9, No.19.
河村小百合 [2015] 「「出口」局面に向けての非伝統的金融政策運営をめぐる課題」JRI レビュー, Vol.7, No.26.
平井俊顕 [2012]『ケインズは資本主義を救えるか』昭和堂
山本謙三 [2015] 「量的・質的金融緩和 (QQE) 下でマネーはどこから生まれ、どこへ消えたか」4月1日.
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