(研究メモ) ミードの国際通商同盟案 (25 July 1942) “A Proposal for an International Commercial Union”
平井俊顕 (上智大学)
・国際清算同盟案との連携を強く意識している (一次産品の国際規制案も意識している。) ・基本的に多角的自由貿易の推進を目的としている。 ・ただし、緩和されたかたちでの帝国特恵の継続は認める ・国家貿易の問題が検討されている (競争的貿易に対峙するものとしての) I. わが国の戦後の通商問題 1. イギリスは戦後、難しい通商の状況になる。食糧や原材料を輸入し、そのためには工業製品を輸出しなければならない。戦争中に外国投資からの所得の喪失があり、そのため一層輸出の拡大が必要となっている。だが、海外でも産業の発展が生じるから、輸出機会はその分厳しくなる。国際通商制限の全般的な除去に最も関心を払っているのは、他ならぬイギリスである。 2. 有益な多角的貿易の機会を最大限維持することが重要。 3. アメリカが戦前の過度の関税障壁を、そしてドイツが双務主義と貿易差別を止めるなら、イギリスの輸出は大いに改善される。とりわけ、われわれは、全般的な世界の経済的、金融的発展から、そして国際市場における障壁や制限の全般的な削減、および差別や双務主義の全般的な削減から、利益を受ける。 4. 「多角主義、貿易制限の除去」は、レッセ・フェールを意味するものではなく、国家貿易とも不整合なものではないことの強調。そして「英米相互援助協定」 (1942年2月) 第7条をベースにアメリカとの協力を望んでいる。だが、国家貿易を望むソ連を自動的には排除せず、また特定の産品の国家輸入システムを継続することを妨げないような手段で「多角主義、貿易制限の除去」の定式化を目指す。 5. 戦後、イギリスは無条件にすべての保護手段を放棄できる状況にはない。だから、保護的な通商政策とかわれわれに差別的な国にたいして、購入を制限、差別する権利を保有しておきたい。さらに、わが国が国際収支の均衡回復問題に直面しているかぎり、重要でない財や、不要な支払いにかんし、より一般的な制限を課す権利を保有しておきたい。 6. わが国の戦後の通商政策の本質的特性 (上に述べたことの要約に該当する) (i) 貿易の大幅な拡張の必要性。世界の購買力の全般的な拡張と外国貿易にたいする制限や差別が削減もしくは除去される全般的な世界システムの実現。 (ii) 第7条にわが国はコミットしており、アメリカとの今後の関係は、それを実行することを必要としている。 (iii) だが、これらを、国家貿易とか、制限的・差別的政策をとる国にたいし制限・差別をかけること、ならびに国際収支上の困難から他国への支払いに制限をかけることを妨げないように行う必要がある。 II. 通商問題の解決について、他の提案されている機関 (International Clearing Union) の貢献 7. ICU 提案は、国際通商制限の削減案を策定するうえでのわれわれの仕事を大いにシンプルなものにしてくれる。 8. 第1の理由: 国際収支の調整にかんし、負債国に不当な負担をかけない。そして黒字国に相応の責任を負うようにさせることで、保護主義を緩和することに寄与。 9. 第2の理由:ICUによる、メンバー国の負債・貸付残高を通じての調整メカニズムは、国際収支の不調整の、実効性の高い自動的な尺度を提供してくれる。 10. 第3の理由:ICUは世界市場の全般的な需要の拡張促進を助けてくれる。これは、負債国の国際収支への圧力を緩和させ、保護手段の実質的な低下を可能にする。 ICU以外に、国際投資開発プログラムや一次産品規制案も、拡張的国際政策への有効な支援を提供する。 III. 可能な通商同盟のアウトライン 11. 国際通商同盟のよって立つ7つの原則 (i) メンバーシップはすべての国に開かれている。が、ICUに加盟している国は特権が得られる。 (ii) 特恵待遇や価格優位は、すべてのメンバー国に適用される。ただし、政治的・地理的事情でグループ化しているところには、ある程度の特恵が与えられてもよい。またこの種の事項は、メンバー国でない国にたいしては許容されるし、帝国特恵の緩和されたかたちのものも許容される。 (iii) メンバー国は他のメンバー国にたいする保護手段を完全に除去し、国内生産者への保護を最大限減少させるべし。このタイプの条項は、非メンバー国にたいしては望む保護手段を導入することを妨げるものではない。 (iv) メンバーで、かつICUのメンバーである場合、勘定がマイナスであるとき、許容された額を超えている場合、ある保護手段を課すことが許される。 (v) 通商同盟憲章には、メンバーによる国家貿易を排除しないことが明記される。 (vi) 通商同盟憲章は国際通商委員会の設置を決める。 (vii) 通商同盟は、条件が通商同盟のメンバーの責務と整合的であるかぎり、メンバーが他のいかなる国と何らかのタイプの通商協定を結ぶことを妨げない。 12. 差別の定義、保護の程度、国家貿易機関に許容される行為についての定義をいかに正確に行うかという問題。あまり厳格に決めると、その後の状況の変化に適用できなくなる。他方、あまりゆるく規定すると、大きな負担が国際通商委員会の肩にかかることになる。通商同盟の成功は、憲章の定式化にかかっている。 13. メンバーの差別的あるいは保護的政策への制限を定義するさいに、憲章の関係する条項に含めることが考えられる条件の事例の表示 (i) ~ (viii) 14. 上記の8つの条件の目的についての説明 IV. 国家貿易の問題 15. 国家貿易の場合に、これらの条項 (正確には何が価格特恵で、何が支払い制限を構成するのかをめぐる条項) を適用する問題 16. 2つの問題 (i) 国家貿易機関によって提供される価格特恵もしくは保護の程度を決定する問題 (ii) 輸入や輸出への量的制限が課せられているかどうかを決定する問題 17. 14の (v)-(vii) に該当する国家貿易の条項として、17 では (i) (ii) が挙げられている。 18. まとめ、および 長期の先物契約についての警告的な言及 V. 国際通商委員会の設置とその内容についてのスケッチ VI. 移行期の問題 多くの国において通商政策の広範な再調整が必要となる。戦争が終了してから5年ほどのあいだに通商同盟のメンバーになることができるような移行期の取り決めが必要となる、として2つの事項が挙げられている。 |