シュムペーター「資本主義」(1946年) 1.資本主義 ・シュムペーターは資本主義を、民間ビジネスマンの指導に委ねている社会と定義する。そして生産手段の私有化、利潤を目的とした生産、それに銀行信用組織を特徴とする社会ととらえている。 ・シュムペーターはこうした社会はギリシア=ローマの昔から存在すると主張する。そして古代から現在まで、技術における相違はあるとしても、緩慢で連続した変形にすぎないとする。 ・シュムペーターは、封建時代・中世にあっても活発に展開されていた国際金融的、国際貿易的活動に着目している。 ・こうした見地から、マックス・ウェーバーの『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』を徹底的に批判・否定している。 2. 重商主義資本主義 ・資本主義過程の論理にとっては外生的であるできごと ― 南アメリカの銀・金の流入、および封建貴族がみせた自己利益のために新たな富を動かそうとする活力 ― が重要であった。 ・2つの異なった社会的世界の共生は18・19世紀までのヨーロッパを理解するうえできわめて重要。 ・重商主義時代を説明する2つの理論 ― (1) 勃興するビジネス・クラスが重商主義政策の牽引者であったとする理解 (これはマルクス的理解)、(2) ビジネス・クラスの役割は主人としての役割ではなく、召使いとしての役割であったとする理解。 シュムペーターは (2) の立場に立つ。そして資本主義は本性的に平和愛好的であり、経済ナショナリズムや政治的圧政という傾向は資本主義外 (extra-capitalist) 要因である、と主張する。 3. 完全 (intact) な資本主義 ナポレオン戦争後から19世紀末までの資本主義のこと。自由主義、自由放任、自由貿易、制限のない金貨。 シュムペーターは、この時代が友好的・平和愛好的であった、と主張している。 ・ビジネスマンに由来する合理主義、物質的進歩にたいする信頼、功利主義 ・非資本主義的な支配者も、ビジネスマンの代理人 (agents) と化した。 ・こうした発展は、どの時代よりも、純粋に経済的原因により説明ができる、とシュムペーターは述べる。 4.現代 (1898年以降) ・革新技術に支えられた経済の発展が1912年まで続く。 ・大恐慌期も以前のものと基本的には変わらない、とシュムペーターはいう。 ・しかし、資本主義にたいする態度の完全な逆転、自由主義時代のほとんどの傾向の逆転が生じたという。 ・2つの理解 ― (1) 消滅する投資機会の理論 (A. ハンセン)、(2) 帝国主義理論 このいずれにたいしても、シュムペーターは否定的である。ただし、(2) について、3つの長所を指摘している。 5.資本主義の経済学 ・資本主義過程は進化的である。静態的な資本主義は形容矛盾である。 ・主役は新結合を遂行する企業者であることが強調される。 ・要するに『経済発展の理論』の世界。 ・ワルラス的完全競争理論のもつ意義についてまず述べる。 (シュムペーターは自らの「経済発展の理論」を述べるにさいし、必ず、circular flowに言及する。言及しないときはけっしてない。この点に注意が必要である。) ・だが、それは費用構造が変わらないといった条件が成り立つ場合にのみ有効なものであり、現実には大企業による技術の革新、大量生産のもつ経済性が重要である。シュムペーターはこの点に注目を寄せる。 6.資本主義社会の階級構造 まずは、マルクスの階級概念を持ち出す。そしてそれは分析目的にとっては価値がない、と批判する。 ・いくつかの階級の協力、反目をみることが重要である、という。 ・ 諸階級間のあいだの移動という事実が資本主義の社会構造の特質である、とシュムペーターは主張する。 ・ビジネスにおける成功・失敗を通じての社会的成功 (失敗) はプラスの (マイナスの) 社会的選択を意味するのかいなかというもう1つの重要な問題 ― 労働者的環境からの企業的成功による社会的上昇は、超人的意思と知性に帰することができるが、そうでない場合は説明が難しい。 ・「有閑階級」概念 (ヴェブレン) にたいする批判 7.搾取と不平等 ・「資本主義は搾取を意味する」という発言にたいするシュムペーターの否定的コメント ・所得の不平等をめぐってのシュムペーターのコメント 8.失業と浪費 ・失業は、今後は十分な生産により重要なものではなくなるであろう。 9.資本主義の将来 ・診断と選好が入り交じった評価になっている。 ・マルクスの分析にたいする評価。資本主義過程の分析から引き出された議論と、解答自身とを分ける必要がある。シュムペーターは前者を否定し、後者を継承する。 ・『資本主義・社会主義・民主主義』的議論 ・現在の傾向は社会主義に向かって進んでいる。 |