2018年3月31日土曜日

シュムペーター「価格システムの本性と必要性」(1934年)


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シュムペーター「価格システムの本性と必要性」(1934年)
 

1. シュムペーター特有のレトリックに富んだ小論である (私は、「シュムペーター・ツイスト」と呼ぶことにしている)。

一番の中心は、価格というものは、別に資本主義社会だけに特有のものではなく、その性質上、どの社会にあっても必要なものである、という点である。

2. 「価格 (+利潤) は資本主義社会における偶発的なできごと (incident) であり、現在の生産可能性の完全利用にとって障害になっており、それらはない方がよい」という近年みられる意見にたいしての彼のコメントが主題である。

3. シュムペーターはこの見解自体は誤りである、と考えている (と思う)。だがこう述べた後、彼はこの見解を支持する理論が、近年展開されてきたことを指摘する (これはチェンバレンの独占的競争理論を指している)。そのためかつては馬鹿げているとして経済学者によって一蹴されてきたもの ― そしてそれは市井の人がもっている見解であるが ― が、かなり大きな真実を有するものであることが判明してきたことが強調されている。シュムペーターは、依然としてその見解が蘇生したとはいえないものの、新たな理論の進展によってこの見解の正しさが相当示されるに至っている (何というレトリック!)、と述べる。経済学の初等教科書から、価格にたいするこうした見方を論駁することはできるが、それでもこの見解のもつ現実的含意には注目すべきものがある、というのである。

4. 価格というのは、あらゆる社会、経済行為一般につきものの現象である。それは経済選択の係数とみればよい。社会主義経済にあっても、何を、どのように生産するのかに関する決定は、― 中央当局が ― 同志にたいしてその量的選好を表明する機会を与えるしかない。

「もし、価格が選択係数と考えることができるならば、... 同志の選択係数は本質的に価格となるであろう。」

シュムペーターはさらに、マネージャーは生産手段の価値を帰属理論によって決定していく必要があることを指摘する。そしてこれらは資本主義社会での生産手段の価格と本質的に同じものである、という。

 「代替的生産のこれらの価値は、資本主義社会では、自ずから生産手段の貨幣価格で表されるが、他のいかなる形式の社会でも同等の表現で表されるであろう。」

 次の一文はこの小論の重要な箇所である。
 
 「それゆえ、ある経済的次元は、生産のガイダンスとしてつねに必要であり、この経済的次元はつねに、そしてすべての状況下において選択係数で表現されるが、これは基本的に、資本主義社会の価格と同じものである。」

つまり、価格というのはいかなる社会でも必要とされるものであり、同じ性質をもつものであるとの主張である。

5.完全競争についてのシュムペーターの見解

  完全競争は最大の厚生をもたらす: これは誤り (厚生経済学の第1命題の否定であろう)
  完全競争は最大の総生産をもたらす: これは正しい。

 このうえで、こうした競争は存在しないし、現在の大規模生産の時代には存在しないという事実によって、このことは損なわれる。

 完全競争によって証明されていることは、不完全競争のケースでは成り立たない。ここでチェンバレンが持ち出されている。

 こう述べながらも、シュムペーターは完全競争理論の有意義性を強調する。

  「しかしながら、純粋な意味での自由競争の理論の診断的価値は、これらの考察によって損なわれるものではない。それを考え抜くことのみならず、簡単な形式で公衆に提示することには依然として価値がある。というのは、それはトラブルの原因が存しない場所を示し、それゆえに、それはわれわれがそれらをどこに探すべきかを含意するからである。」

6. 最後に、シュムペーターは3点にまとめて示している。

(1)選択係数を価格に変えることで、その機能や性状は変わらない (ただし、この問題と信用創造が攪乱を支持するのかどうかという問題とは無関係 … 資本主義社会の信用創造問題についてのシュムペーターの見解をかいま見せている。つまり、資本主義経済を他の経済システムと識別する点として彼が強調する論点である)。
 
(2)競争均衡の安定性は、不完全競争には適用できない。乖離すればするほど不安定性と攪乱は増してくる。: この小論では、「経済発展の理論」はまったく姿をみせてこない。この観点は抑えられている。

(3)外部からの攪乱が、完全競争状態を極端に不安定なものに今日していることに注目を喚起している。とりわけ社会環境の雰囲気への着目: これは『資本主義・社会主義・民主主義』に関連する見解である。

「われわれは社会的環境 ― それから生じる特別の方策はまったく別にして ― の一般的特性に一瞥を与えることを忘れてはならない。資本主義社会が、ともに働く生活様式およびビジネス手法への一般的な敵対心により、数千もの微妙な方法で資本主義機構の効率性を損なう可能性のある社会的環境に、である。」