2016年8月10日水曜日

ナイト『危険、不確実性および利潤』 (1920) 第11章 不確実性と社会進歩 by 平井俊顕






ナイト『危険、不確実性および利潤』 (1920)

第11章 不確実性と社会進歩

by 平井俊顕

不確実性がないところでは社会的進歩はない。静態的な社会では完全に将来が予見できる。また自然界の変化とは異なり、社会の変化には不確実性がつきまとう。

企業家をはじめとして多くは、企業財産 (property) 価値の上昇を通じたもうけを第一義的に考えるというのが資本主義社会の特性であって、けっして所得の上昇を第一義的目的にしているわけではない。そして企業家はいかにして企業価値を上昇させるか、そしてその情報をいち早く利用してもうけることに、多くの神経を使う存在である。
 現代の経済生活の多くの重要で不気味な現象は、この事実から生じる、とナイトはい
う。インサイダー取引による巨額の利潤の獲得、そしてババ抜きのように、1人こっそ
り抜け出して、他の人にスカをつかませる行為は、生産メカニズムの効率的な働きにと
って、深刻な脅威となる。

資本主義世界には資本の蓄積という現象が生じる。

貯蓄は投資に変換されるが、そのさい、貯蓄する主体と投資する主体が異なるのは一般で、そこで資本市場があらわれる。そしてそこで利子率が決定される。

資本主義社会は消費者主権で成り立っているわけではない。むしろ資本主義社会では、蓄積のために貯蓄をするのであり、消費をするよりもいかに貯蓄をするかの方に重点がおかれている。

企業家が直面する不確実性として、製品の販売価格があげられる。原料を購入するときはすでに確定した価格での購入になるが、販売は未来へ向かう行為であるから。

企業家の販売価格のもつ不確実性は、技術革新のもつ不確実性よりも不確実なものである。

企業家の直面する不確実性の典型は、投資行為である。投資は、必要な資金を借入れ、それにより機材を購入して工場を建設し、そしてその後、製品を製造して、将来収益を獲得する。将来収益は利子率で割り引かれて現在価値として企業財産となる。

「自由資本を新しい生産設備に転換する、つまり貯蓄を投資に転換することから生じる不確実性をここまで論じてきた」(p.335)

社会的進歩の諸要素が不確実性といかに関係しているのかについての考察 ― 自由資本、その投資への転換、そして投資が銀行貨幣と関係していること、などがもたらす不確実性

利子率が資金の購入のさいのコストであるのにたいし、レントはその資金により建設された工場があげる収益というかたちで実現される。

生産行為よりもマーケティング行為の方が不確実である。だから過去において商人が生産者を支配してきた。

生産者は資本価値の変化に影響を与える利子率の変化に依存する。

不確実性があるから、企業組織が組まれる。 (N.b. コースの場合、内部取引と市場取引のコストの関係で企業組織を考察したが、ナイトの場合、不確実性の存在が重視されている。) 

新しい方法が導入されたとき、既存の要因がどのような影響を受けるかについての考察
がなされている。既存の方法で生産されている中間財、資本財のケース、そして労働者
のケース。

労働者のケース:企業組織側からみれば、労働の新しい実質価値への賃金の再調整にラ
グが存在するという問題だけ。だが、労働者がもつ特殊技能の劣化は労働者個人の問題
に帰し、企業者の問題ではない。
 
「再調整との関連での労働の特殊性が、個人的経済(資本主義経済)での不正と困難の主要な原因の1つを構成する。獲得された知識や訓練の価値の喪失という危険は、極貧のつねに襲いかかる脅威を意味している」。(p.346).

新しい技術革新によって、これまでもっていた技能が劣化したことで労働者が失業してしまう危険は、資本主義社会のもつ不公正と困窮・過酷さである。