オバマケアとドッド=フランク法の現状
1. はじめに
オバマ大統領はこれまでに2つの画期的な法律を成立させた。1つは「健康保険ならびに教育リコンシリエーション法」(2010年3月。以下、「オバマケア」1と呼ぶ) である。無保険者が3000万人を超えるアメリカ社会の歪みを改善せんとするものである。これまでの民主党政権が制定に失敗してきたものであり、1960年代以来最大の国内変革の動きとなる。
もう1つは2010年7月に成立した「ドッド=フランク ウォール・ストリート改革および消費者保護法」(以下、「ドッド=フランク法」と呼ぶ)である。同法は、グラム=リーチ=ブライリー法(1999年)によって廃絶されたグラス=スティーガル法を、現代的形態で復活させようとするものである。金融自由化気運が高まるなか、ネオ・リベラリズムや金融工学からも後押しされて成立したグラム=リーチ=ブライリー法はSBS (シャドウ・バンキング・システム) を肥大化させ、証券化商品の異常な多層化の進展のはて、ついにはリーマン・ショックを契機に、世界経済のメルトダウンを将来することになった。ドッド=フランク法は、SBSの根絶ならびに金融機関の行動を政府の監督下におくことで、健全な資本主義経済の復活を目指すものである。
2法の成立経緯およびその内容は、「オバマ政権の二大国内制度改革」と題して本誌で取り上げたことがある(2010年11月号)2。今回は、現在に至る2法 ― 11月の大統領選をめぐる重要な争点 - のその後の経緯をたどることにしたい。
2. オバマケア
当初よりオバマケアにたいするアメリカ国民の反応は、賛否相半ばするものであった。民間保険に加入することが容易な富裕階級ならびに上位の中流階級はオバマケアにより過大な税負担が生じることを懸念している ― それに「自己責任論」が加わる。彼らと同じサイドに立つのが二大企業によって支配されている生命保険業界である。当業界は、民間部門への政府の介入自体を批判し - それに個人の自由選択にたいする侵害批判が加わる -、巨額の資金を投じ、ロビイスト活動を含む強力な反対運動を展開している。
他方、下位の中流階級になると、自らの手でセイフティ・ネットを構築するのは、失業などで困難な者も多く、オバマケアを希求する声が強くなる。さらにその下には無保険状態にある3000万人以上の貧困層が存在する。彼らがオバマケアを熱望するのは当然の理であろう。こうした冷酷な現実にあって国民皆保険制度を目指しているのがオバマケアである。
オバマケアは、共和党からの攻勢にさらされながらも、予定されたスケジュールに沿って実施されてきている。同法がコストのかからないものになっていること、また即座に効果を発揮する事項 ― 一例を記せば、26歳まで子は親の保険を使えるとか、既往症をもつ子の加入を保険会社は阻止できないといった事項 - が存在すること、を大統領側は大衆に訴えてきている。
2010年11月の中間選挙での大勝の後、共和党は主たる目標をオバマケアの廃案に定めた。現実的には、同法のなかの重要項目に資金が流れるのを阻止することで、事実上の停止状態に追い込むという戦術がとられた。
なかでも大きな争点になったのが、「インディビデュアル・マンデイト」 (Individual Mandate. 2014年から施行予定) である。すべての個人が保険に加入することを要請されており、それを拒否するとペナルティが課せられる - しかもペナルティ額は時間が経過するにつれて増大していく ― というものである。
なかでも大きな争点になったのが、「インディビデュアル・マンデイト」 (Individual Mandate. 2014年から施行予定) である。すべての個人が保険に加入することを要請されており、それを拒否するとペナルティが課せられる - しかもペナルティ額は時間が経過するにつれて増大していく ― というものである。
これをめぐり、共和党側よりの司法からは、個人に保険購入を強要するのは政府・議会による個人の自由にたいする侵害であり、憲法の「商業条項」(Commerce Clause) に違反する ― 個人がブロッコリーを買うのを強制してはならないのと同様に - という反対論が提起された。反対者は、経済的困窮に陥っているため保険を買いたくとも買えない状況にある無保険者を、自らの判断で買わないと決めているとみなし、そしてそれを尊重すべきというわけである。そこには、保険は ― ブロッコリーとは異なり ― 失業したり、疾病に陥った人であっても、受ける権利がある - つまりナショナル・ミニマム ― という発想は認められない。
これにたいし、賛成者は、保険はブロッコリーを購入するのとは別の次元の問題であり、国民全体のことが考慮されるべき事項、すなわちナショナル・ミニマム ― だれもが最低限の健康を維持する権利、そしてそれを社会が保障する義務 ― が重視されるべきものである、と主張している。
制定の後、オバマケアをめぐり、その合憲制・違憲性を問う裁判が全米の州で展開することになった。
違憲判決の典型的な事例として、2011年2月のフロリダ州での裁判がある。ここでは、個人にモノを買うことを強制する条項が全体の法案と分離できない形式になっているがゆえに、全体が違憲であるという趣旨の判決が下されている。車は交通手段として不可欠だから、政府が市民にその購入を命じるのが個人の自由にたいする侵害であるのと同様、健康保険の強制も然りであるというのである (同様の趣旨の判決は、全米26州でなされている)。
共和党は、オバマケアそのものを廃案にする行動にも出た。例えば、2011年1月、下院に廃案動議が提出され可決された (2月の上院では否決されている)。その後、現在に至るまでに、下院ではじつに32回もの廃案動議が出されている。
「インディビデュアル・マンデイト」以外でオバマケアの重要なコアとなっている項目に、保険購入の取引所の設置(いわゆる「パブリック・オプション」。公衆が公的な保険と民間の保険のいずれかを選択できるようにする制度)、「メディケイドの大幅な拡大」(健康保険の貧者への大幅な拡大) - があり、いずれも2014年からの実施が予定されていた。このうち、パブリック・オプションについては、オバマ政権は事実上の廃止に追い込まれている。
「メディケイドの大幅な拡大」であるが、全米のどの州も財政難に陥っているうえ、共和党系の知事は、メディケイドの資格条件を厳格にするという行動に出た。一例をあげると、アリゾナ州では28万人にたいするメディケイドの適用を見送りたい旨の願いが政府に提出されている。
自由や福祉をめぐる理念的対立に加え、党派対立、さらにはロビイスト活動、財政難に苦しむ州の状況などに翻弄されながら、オバマケアの施行は苦難に満ちたものになっている。オバマ政権は譲歩につぐ譲歩を重ねてきており、本来例外的状況で発せられるべきはずの「ウェイバー」が日常化しており、虫食い状態に陥っている - 一例として、従業員数50人を超える企業における保険の強制加入問題がある。
自由や福祉をめぐる理念的対立に加え、党派対立、さらにはロビイスト活動、財政難に苦しむ州の状況などに翻弄されながら、オバマケアの施行は苦難に満ちたものになっている。オバマ政権は譲歩につぐ譲歩を重ねてきており、本来例外的状況で発せられるべきはずの「ウェイバー」が日常化しており、虫食い状態に陥っている - 一例として、従業員数50人を超える企業における保険の強制加入問題がある。
そして2012年3月、舞台は最高裁に移り、そこでの判決がオバマケアの命運を決定するという状況に立ち至った。つまり、そこで合憲と判決されるのか違憲と判決されるのか、という状況である。戦前の予想では、イデオロギー的対立と党派的対立が9人の裁判官のあいだにはみられ、判決は4対5か5対4で決まるとみられていたのだが、6月28日に出た判決は5対4でオバマ陣営の勝利であった。最高裁長官J. ロバーツの票がオバマに微笑んだのである。
一番の争点は、「インディビデュアル・マンデイト」であったが、判決は、いままでとはかなり異なる論理 - 保険に入らない者への罰金は政府の課税権とみなすことができる - に基づいている。
憲法はそのような税を許容しているがゆえに、それを禁止すること、あるいはその知恵や公平性について判断を下すこと、はわれわれの役割ではない。
大統領も国民一般と同時にこの判決結果を知らされた。そしてその合憲判決を心から祝福する旨の異例のスピーチを行った。「異例」というのは、オバマケアをめぐっての評判は既述のような理由で賛否相半ばしており、選挙参謀はこの問題をスピーチでの話題にするのを控えるよう助言していたからである。
とはいえ、オバマケアは大統領就任以来の最大の功績であり、これに合憲のお墨付きが付いたことは大統領の再選に有利な材料になったとみられている。違憲判決であった場合は、大統領にとって非常に好ましくない影響をもたらすことになったであろう。それは共和党側の勝利とみられ、再選に黄色信号が灯る材料になったことであろう。
とはいえ、オバマケアは大統領就任以来の最大の功績であり、これに合憲のお墨付きが付いたことは大統領の再選に有利な材料になったとみられている。違憲判決であった場合は、大統領にとって非常に好ましくない影響をもたらすことになったであろう。それは共和党側の勝利とみられ、再選に黄色信号が灯る材料になったことであろう。
しかしそうした点とは別に、大統領はオバマケアを非常に重要な歴史的成果、健康保険制度の歪みを是正するために必ず成し遂げなければならない仕事であるとの確信を抱いていたから、容易に折れることがなかったことも確かである。違憲と判決された場合でも、大統領は再選の暁には、その最も重要な部分を保持するかたちで存続させる強い意思を表明していたのである。
ただし、最高裁の判決が、オバマケアの1つの重要な核である「メディケイドの大幅な拡大」を無効とし、その選択を各州の決定に委ねられた点は、オバマケアの小さくはない後退であったという点は、急いでここで指摘しておく必要がある。
ただし、最高裁の判決が、オバマケアの1つの重要な核である「メディケイドの大幅な拡大」を無効とし、その選択を各州の決定に委ねられた点は、オバマケアの小さくはない後退であったという点は、急いでここで指摘しておく必要がある。
他方、共和党は、この判決を受けてオバマケアの廃案にむけての闘いを継続していく旨の声明を発表した。ロムニーも、大統領に選出されればこれを廃案にするように努める、と明言している。
3. ドッド=フランク法
ドッド=フランク法で新設された核となる組織の重要ポストが、共和党ならびに金融界の抵抗 - ロビイスト活動を含む - により、なかなか決まらないという事態は2010年9月には生じていたのだが、11月の中間選挙での共和党の大勝により、事態は一層の困難さを増すことになった。
2011年1月、ティー・パーティ3に属する共和党議員がドッド=フランク法の廃案動議を下院に提出した。それは「同法は、行政の銀行にたいする過大な権限の付与であり、大きな政府の出現である。それに同法はファニー・メイなどのGSEにたいしては何の処置もとっていない。同法は失業をもたらすものであり、それに何よりも違憲である。むしろ、以前の状況を保持するのがベターである」と、全面否定に立つものであった。動議は、下院を通過したものの上院を通過することはなかった ― かりに、両院を通過したとしても2/3以上の多数 (「スーパーマジョリティ」) でないかぎり、大統領の拒否権を覆すことはできない ― とはいえ、共和党の力・意思を表明する格好の機会となった。
共和党もドッド=フランク法の廃案は無理であることを承知しており、現実策としてはその骨抜きを狙っていた。具体的には、金融規制に大きな役割をはたすことになる機関の変更や長の任命の妨害、さらには予算割り当ての大幅カットにより、実質的にドッド=フランク法の施行を妨害しようとした。
共和党もドッド=フランク法の廃案は無理であることを承知しており、現実策としてはその骨抜きを狙っていた。具体的には、金融規制に大きな役割をはたすことになる機関の変更や長の任命の妨害、さらには予算割り当ての大幅カットにより、実質的にドッド=フランク法の施行を妨害しようとした。
とりわけ重要な争点となったのが、CFPB (「消費者金融保護局」)であった。まずは局長問題である。大統領が推す最有力候補はE.ワレンであったが、これにたいし共和党は強硬に反対した。2011年3月には下院の委員会でワレンにたいする証人喚問が開催され、彼女にたいし共和党議員からの厳しい質問が浴びせかけられた。
5月に、共和党は2つの「改革」を要求する書簡をホワイトハウスに送付した。1つはCFPBは (1人の長ではなく) 5人による合議制へと改組すること、もう1つは予算を議会の承認事項にすること - CFPBはFRBのなかに、だがそれとは独立の機関として設立されることになっている - である。あくまでも強力な指導力を発揮することが予想されるワレンを阻止し、かつ予算を削減することでCFPBの活動を抑制するのが共和党の目的であった。
5月に、共和党は2つの「改革」を要求する書簡をホワイトハウスに送付した。1つはCFPBは (1人の長ではなく) 5人による合議制へと改組すること、もう1つは予算を議会の承認事項にすること - CFPBはFRBのなかに、だがそれとは独立の機関として設立されることになっている - である。あくまでも強力な指導力を発揮することが予想されるワレンを阻止し、かつ予算を削減することでCFPBの活動を抑制するのが共和党の目的であった。
2011年7月18日、CFPBの局長 (ディレクター) について、ワレンを諦めた大統領は、R.コードレイを指名したが、12月18日、上院で否決された。だが、翌年1月、大統領はコードレイを「リセス・アポイントメント」(議会の閉会中に任命する方法)により再度指名した。共和党は「プロ・フォーマ・立法セッション」(形式的に議会を開催しているようにみせかける方法)を含む激しい反対運動を続けるなどしたが、4月にはこれを覆すことのできない状況に至っている。
こうしてようやく組織活動が可能となったCFPBがその最初の仕事として行ったのが、キャピタル・ワン・バンクによる消費者を欺くクレジット・カード上でのマーケティング行為を行っているという嫌疑での告発である。2012年7月に同銀行が2億1千万ドルの支払いに同意したことで、子の件は決着をみたが、CFPBは今後、同様の行為を行ってきている銀行にたいする追及を行っていくと明言している。
2011年7月、共和党は「消費者金融保護の安全と健全性改善法」を下院に提出した。これは名とは真逆の内容をもつもので、ドッド=フランク法の1023項を変更することで同法の骨抜き、とりわけCFPBの無力化を目的とするものであった。またウォール・ストリート側がさらなる抜け穴を完成させるための時間稼ぎをも目的にしていた。7月21日、同案は下院を通過したが、これが上院を通過することはない。大統領もいざとなれば拒否権を発動すると明言している。
組織上の問題では、CFPBのほか、共和党が大きな攻撃目標にしたのは、「商品先物取引委員会」(CFTC)、および「証券取引委員会」(SEC)であり、これらの組織の重要ポストも容易に決まることはなかった。2011年8月2日、大統領はCFTCコミッショナーにM.ウェチェンを指名していたが、上院で承認されたのは10月21日のことであった(委員長はG.ゲンスラー)4。
CFPBに次いで、共和党側が激しく反対したものに2つの事項がある。第1は、いわゆる「リンカーン・アメンドメント」(ドッド=フランク法716項。OTCデリヴァティブを廃止し、公開市場の創設を通じ、取引を透明・公正なものにしようとするもの) である。金融界はこれを嫌い、不透明な現状のままにしようと画策してきた。これはB.リンカーンのイニシアティブで策定されドッド=フランク法に組み入れられたのだが、彼女自身が中間選挙で敗れたこともあり、スワップ・ディーラーのデリヴァティブ取引は完全な「自由化」が保証される状況になり、2012年2月には、ほとんど廃案に追い込まれる事態に陥っている ― N.ヘイワースによるH.E.1838がそれであるが、まだ成立しているわけではない)。
こうして後退状況におかれている「リンカーン・アメンドメント」であるが、関連する「スワップ」の定義・規定をめぐる具体化が発表されたのは2012年7月のことである。FRBの救済対象にディーラーがなれるかどうかを決める重大な決定であり、これはCFTCの管轄事項である。
第2の事項は、いわゆる「ヴォルカー・ルール」(ドッド=フランク法619項。銀行の自己勘定取引を禁じたもので、預金を預かる銀行が、同時に投機的行為に走ることで預金を危険に晒すことを禁じている)である。
FSOC (「金融安定監視委員会」) はこの規定をめぐり意見を広く公に求めた。共和党は、ヴォルカー・ルールがグローバル金融市場でのアメリカの銀行の競争力を阻害するとして、関係する執行機関への予算を削減するように活動していた。
2010年10月には、ヴォルカー・ルールの草案が提示され、SEC、FRB、FDIC(「連邦預金保険公社」)、CFTCはそれに賛同したが、銀行業界からはコストがかかりすぎるとの批判が、また改革派からは抜け穴が多すぎるとの批判が続出した。
ところで、「ヴォルカー・ルール」への関心を呼び起こすような出来事が最近になって生じている。ニューヨーク連銀は大銀行JPモルガンの投資行動を監視するためにチームを結成して銀行に常駐しているが、銀行の複雑な投資行動の監視がいかに困難なものであるのかが明らかにされたからである ― (1) 連銀スタッフが銀行の実情に習熟すること自体、至難の業である; (2) 銀行は重要な機密情報をさまざまな手法で隠し、本当の状況を連銀に伝えようとしない; (3)リスク評価の手法をひそかに変更することで、より巨額の投機行動を繰り返し行っていた。このため、JPモルガンは最近もCDS取引により莫大な損失を引き起こすことになった。
これらの行為を監視することがいかに困難な作業であるのかを物語るとともに、金融規制の難しさ、つまりはドッド=フランク法の実施の難しさ、有効性とも大いに直結する重大な問題が、オバマ政権に突きつけられている。
***
すでに大統領選はオバマとロムニーの一騎打ちとなり、ネガティブ・キャンペーンも花盛りといった状況であるが、国内問題に限定すれば、大きな争点になっていくのが「オバマケア」、「ドッド=フランク法」である。ロムニーが大統領に当選した場合、この2法を廃案にできるかいなかは、共和党が上院でフィルバスターを行える60票を確保できるかいなかにかかっている。それが実現できない場合、ロムニーは組織の進展を阻む戦術に出ることであろう。
「オバマケア」は最高裁による合憲判決を得たことで、また「ドッド=フランク法」もその実施に向けての組織や具体的事項が、ようやくほぼ決定したことで、これまでとは異なる新たな段階に達している。
だが、オバマケアの実施にはかなり不確実な問題が残されたままである。とりわけ大きいのは、「メディケイドの選択制」が承認された点である。民主党系の知事か共和党系の知事かにより、弱者への扱いが極端に相違する可能性が浮上してくることになるからである。それに、アメリカ社会には社会保障について、既述のような激しい思想的対立が強固に存在しているという、より根本的な問題がある。
金融規制改革法だが、これが成立したのはアメリカだけである。アメリカが法案を成立させても、他の国、とりわけイギリスやEUが同様の対処策を講じないのであればザル状況になってしまう。金融はよくも悪しくもグローバルな展開が最も活発になされてきた領域である。アメリカが規制を強化しても、他が同一歩調をとらなければ、そうした投機活動は場所を移して続けられることになる。それに加えて、ドッド=フランク法自体、これまでのところ何の活動もできていない ― ようやく制度が整ったという段階 ― のが現実である。
こうした現状は、金融界が政府からのベイルアウトで急速に立ち直ったうえ、SBSを放置しているということを意味しているから、再び巨大な金融危機が世界を襲う事態が起きたさいに、世界は何の防備策ももたないまま、それを迎えるということになるであろう。
1) 「オバマケア」は、当初、反対者によって付けられた蔑称であるが、その後、それを超えて一般に使われるようになった。
2) 平井俊顕『ケインズは資本主義を救えるか』(昭和堂、2012年)第6章および第7章も参照。
3) ティー・パーティはその後、S.ペーリンの大統領選出馬辞退、昨夏のデット・シーリング引き上げ問題での硬直的姿勢にたいする支持者離れ、などを契機に大統領選への影響力を急落させている。
4) CFTCはグラム=ブライリー=リーチ法の成立をめぐる最後の攻防の舞台となったことで知られる。