2013年8月28日水曜日

Robbins, 'Full Employment' as an Objective, 1949


              Robbins, 'Full Employment' as an Objective, 1949

 1. ベヴァリッジの『自由社会における完全雇用』にみられる政策目標として完全雇用を重視しすぎることがもつ危険性を指摘したもの。ただし、論述はベヴァリッジを意識したせいか、非常にまわりくどい表現の多いものになっている。またなぜこれほど、目の敵にして完全雇用政策を論じるのか、その意図がもう1つ説得的なものには思えなかった。
2. ベヴァリッジの完全雇用の定義は、失業者数よりも職の提供数の方が多い状態となっている。これは、(1)インフレーションを引き起こす危険性をもつ,(2)労働の可動性を著しく損なう、(3)国際収支上の重大な危険をもつ、(4) 個人的自由の著しい削減をもたらす。
3.さらにロビンズは、「それは個人の自由という本質的に重要なものの存続と整合的ではない」(p.51)というより根本的な批判を展開する。
4.こうした傾向を避けることのできる代替的な概念を示し、しかしそれは完全雇用として有益に定義されるのかに懐疑的であり、また全般的な経済政策の唯一の指導原理としてそれを無条件に受け入れることに、ロビンズは反対を唱えている。p.53
5. 因みに、スペクトラムのなかに数名のイギリスの経済学者を並べてみると、次のようになる、と私は思う。
  ピグー ホートリー ベヴァリッジ ケインズ ロバートソン ロビンズ
6.代替的な概念:理想は、申込者の数と同数の仕事の供給として表現できる。ただし、申込者が喜んでその仕事に向かうという条件で。p.54
7.しかし、「完全雇用」という言葉が失業率ゼロというのであればこれは、現実の世界(発展と変化を考慮しなければならない)では、恒常的な不均衡を意味することになる。
現実的には、われわれの基準はゼロより上の平均パーセントを意味する。

8.しかし、完全雇用という用語の使用は、ミスリーディングである、とロビンズは述べている。現在のイギリスにおける調整に必要な一番すごい障害は、今の失業率がまだ完全雇用以下であるという信念である、とロビンズは考えている。p.55
9. ロビンズは、現在の最大の問題であるインフレ圧力を減らすことが、ゼロ失業率という完全雇用にこだわるために、できないという状況を指摘している。
10. 『完全雇用白書』と『自由社会における完全雇用』を比べ、ロビンズは前者のトーンに賛意を表明している。 p.56
11. 代替的な概念が正しいとしても、それでも制約条件、限定条件が必要となる。それなしには代替的な概念ももちいることはできない。1つは、労働市場の問題であり、労使による独占的な交渉で賃金が決められるような状況下にあっては、インフレを引き起こす危険性が高い。
 そこで2つの代替案の選択が必要となる。
 (1)全体主義的な方法―国家による賃金の固定
  (2)自由主義的な方法―雇用政策の目的を変更すること。すなわち、究極の目的としての高雇用を放棄し、総支出の安定化というようなものに換えること。

 もう1つは、国際均衡の問題である。国際均衡にとって可能な必要条件を無視している。これは為替レートの変更でいつも解決される、とはロビンズは考えていない。
12.雇用量にあまりにも集中して経済政策の目的を語ることの危険性の指摘。経済活動の目的は仕事ではなく、仕事の産物およびその享受であるという従来の考え(old view)の方が健全である、とロビンズはいう。
13.ただし、最後に若干の誤解のないように釘をさしている。
とくに雇用の高水準の維持に注意して政策を形成することは知恵である。しかし完全雇用にのみ配慮して政策を形成するのは、非常に危険である、というのがロビンズがいいたいことである。

14.ロビンズは20年後(1970年)に注を付けている。